コロナに負けないカンボジアの農業
課題とポテンシャル
新型コロナウィルスのワクチン接種が進んでいるにもかかわらず、変異ウィルスにより、アセアン諸国における感染は爆発的に増えています。例えば、筆者執筆時点で『インドネシアは、新規感染の平均報告数が世界で最多となっている』とロイターが発表しています。インドネシアでは感染者約300万人、死者約7万6000人と報告されています。カンボジアの昨年の感染者は500名以下で死者ゼロでした。しかし今年の7月時点で、新型コロナウィルス感染者は約7万人、死者約1300名が確認されており、爆発的な感染となっています。
新型コロナウィルスの影響は、ここ30年におけるカンボジアの発展に最大の脅威をもたらしています。過去20年間のカンボジア経済は、衣料品や旅行用品の輸出・観光・建設に牽引されて、平均7%の成長率を維持してきました。しかし、新型コロナウィルスは、これらの主要な原動力に深刻な影響を及ぼしました。例えば、2020年前半以降、ほとんどの縫製工場では、一部の注文が凍結またはキャンセルされました。その結果、同年4月中旬以降、約130の縫製および製靴工場(全体の12%)が部分的または完全に操業を停止し、10万人近くの労働者が解雇されました。(World Bank, 2020)観光業では、今年1月から4月にかけて、カンボジアには約8万人の外国人観光客が訪れましたが、昨年の同時期比では93%減少になりました。(Phnom Penh Post, 2021)建設業では、2020年の国土管理・都市計画・建設省によって承認された新規建設プロジェクトは計78億ドルでしたが、2019年比で32.1%減少しました。(National Bank of Cambodia, 2020)
そんなコロナ禍の中で健闘しているのが農業です。農業は雇用の原点であり、貧困削減につながっています。カンボジアは、水資源がとても豊かです。その豊富な水が、この国を伝統的に農業国家にしています。国の中心には、巨大なトンレサップ湖があり、漁業が盛んに行われてきました。また、中国からミャンマー、タイ、ラオスを経てカンボジアに注ぎ込むメコン川も農業には欠かせません。メコン川はベトナムを経て太平洋に抜けています。メコン川の水量を利用して米作を中心とした農業が営まれています。隣国のタイ、ラオス、ベトナムは国境地域の大部分が山岳地帯で森林に覆われています。耕地面積の約8割を占める稲作は、雨水を利用した一期作が中心になっていますが、灌漑が機能している地域では二期作が行われています。カンボジアはこれまで、精米、キャッサバ、コショウ、ゴム、フレッシュマンゴー、カシューナッツ、バナナ、とうもろこし、大豆、野菜、タバコなど、多くの完成農産物を輸出してきました。2020年、カンボジアは、1300万トン以上の農産物を輸出し、34億3300万ドルを獲得しています。(Phnom Penh Post, 2021)
カンボジア政府は、2000年代以降、国家の戦略開発計画を策定しました。経済関連では、農林水産業の復興が重要な目標の一つとしました。しかし、こうした豊富な自然と計画があるにもかかわらず、農林水産省によると、カンボジアにおける農業に関する課題は多く挙げられています。
- 農産品の低い生産性と競争力が依然として課題です。
- 農業灌漑用の水供給は、農民のニーズに比べるとまだ不十分です。
- 都市への農業労働力の移動はますます農業生産に影響を及ぼしています。
- 適切な近代農業技術への移転は、ニーズに対して依然、不十分です。
- 気候変動、特に農業、家畜、水産業の生産に影響を与える干ばつへの対応が不十分です。
- 不動産セクターの発展と都市化により、農地は住宅、工場、企業の土地に移り、農地所有者は農業活動を停止しています。
- 技術サービスの向上及び信頼性については課題があります。
- 製品の輸送、保管、乾燥、コールドチェーンのための農場へのアクセス道路や農業をサポートするその他のインフラが、アグリビジネス(Agribusiness)に限定されています。
- 家畜生産は、生産コスト、特に動物の飼養と薬価が高いため、まだ開発が遅れています。
- 違法伐採並びに違法漁業は、取締りが行われているにもかかわらず、未だに存在しています。
そこで、政府は、農林水産省を通じて、国連食糧農業機関(FAO)とカンボジアの国際農業開発基金(IFAD)からの技術支援を受け、新たな農業開発政策(2021-2030)を策定しています。この10年間の政策の目標は、高い競争力と包括性で農業の成長を促進することです。土地、森林、水産資源を保護しながら、高品質で安全で栄養価の高い食品の提供を増やすという国のミッションを支援することです。(FAO, 2020) さらに、今後、カンボジアは近代的な農業に対する諸外国からの投資を呼び込みます。そして、自由貿易協定(FTA)を生かし、輸出を拡大していきます。それに加えて、コメと野菜の生産性や加工技術、サプライチェーン機能の向上についても挙げられています。(井上、2021)
近年、カンボジアの農業分野において投資の関心を持つ日系企業も増えつつあります。クメールタイムズ紙によれば、日系企業は、カンボジアで野菜と果物へのプロジェクト投資を試験的に行っており、国際市場への輸出のために加工と包装もする計画をしているということです。また、日系企業と現地の企業との共同事業のパターンも見られます。具体的に、2018年、日本の亀田製菓は、米菓製造販売を行っているリリー・フード・インダストリー社と共同で輸出向け米菓製造販売の合弁会社を設立しました。
ジェトロ・プノンペン事務所によれば、カンボジアの農業には、ビジネスチャンスがあり、様々な産業が連携し合い、生産段階から加工・流通・販売まで行う6次産業を促進していくことが、今後のカンボジアの農業の発展につながると指摘されています。(井上、2021)
今後、ASEAN諸国や他国への輸出をするために、カンボジアにおける農業の事業展開が期待されています。
執行役員 カンボジア・ベトナム担当
リム・リーホン