他人事から我が事に

 皆様にとって今年はどんな年だったでしょうか。コロナも「普通の病」に近づき、以前の仕事に戻りつつある方も多いのではないでしょうか。私たち日本人は、屈託なくTVを見ればスポーツの勝利に酔い、どの局も同じようなグルメ番組で、またお笑い芸人を前に「楽しそうな」毎日を送っています。いかにも平和な光景です。楽しいことはよいことです。しかし日本の危機は足元にどんどん迫っています。安全保障だけでなく私たちを取り巻く経済環境は日増しに厳しいものとなっています。コロナ禍で世界中が同じ状況とはいえ、日本は際立って弱くなってきました。

 文化的影響力ランキングというものがあります。「その国のアート、食べ物、ファッション、スポーツ、音楽や映画などのエンターテインメントが世界に与える影響を測ったもの」で日本はベスト5に入っています。文化面ではにぎやかです。結構なことです。一方「地球を動かしているのは、 思想ではなく経済だ」。司馬遼太郎が『竜馬がゆく』で坂本竜馬にいわせた言葉です。日本の低迷は経済ですので、この言葉は響いてきます。

 ある勉強会を長年続けていますが、日本の凋落ぶりがあまりにすさまじく、年末に緊急会議をすることになっています。一人当たりのGDPは韓国に抜かれ、世界競争力ではタイにも抜かれ34位、飛行機はできず、半導体もできず、造船も、鉄鋼も衰退の一途。ITに至っては周回遅れ、大学も年々ランクを下げ、小売りも鳴かず飛ばず。最前線ではアニメも危ないと聞きます。ほぼ全産業にわたって崩壊しつつあります。また企業は若い人材を育てることも諦め、今や企業の人材投資は欧米の10分の1です。

 これほどの危機の中にいるのに、大多数の日本人にとって他人事という風体です。驚くばかりです。高齢者が世の中の動きに無関心になることはあるかもしれません。しかしこの傾向は数多くの経営者にもみられます。若い人たちの仕事のやる気が世界133か国中、132位には言葉を失います。これでは先進国から転げ落ちるのはむべなるかなです。

 未来をつくるのはいつの時代も若い世代です。今の若い人の視線は、スキルアップという小手先の技術獲得です。未来を展望しなければならない若い人が、目先の給料アップに励んでいるのです。人間をつくらず、技術を生かすことなどできません。利己的な視点では自分も社会もよくならないのです。今の日本人は大局という視点を忘れてしまったようです。

 東京で働いていた寿司職人がロサンゼルスで働き始めたら月収が二百万になったという話は有名です。アメリカの消費者は価値があると認めたものには、価格が高いということは当然だと受け止めます。ちなみに握り寿司は6000円といいます。これは何を物語るのか真剣に考えなければいけません。日本の労働人口の減少は加速し、海外の人材に来てもらい、日本経済を支えるしかなくなりましたが、ここまで弱体化していくと、日本人が海外に出稼ぎに出かける時代が近づいていると気づかなければなりません。自分たちが生きていくことができない国にどうして海外のはるか遠い国から人が来るというのでしょうか。

 このような国にしてしまったのは誰かのせいではなく、自分のせいです。自分たちが変わったので、国も変わってしまった。ならば、自分たちが変われば日本の未来も出来上がるというのが道理というものです。そのためには、この簡単な事実に気づくことです。気づいた人から動けば、他人事の国から我が事の国として再生していくのだろうと思います。とにかくご縁がある方々には頑張っていただきたいと思います。

 他人事から我が事。来年の鍵ではないでしょうか。

今年1年、大変お世話になりました。深く感謝申し上げます。ありがとうございました。良いお年をお迎えください。

代表取締役 松久 久也