易経に読み解くビジネス 閑話休題
親のアドバイス・子どもの進路

 消費税増税を確約して参院選を迎えることになりました。5月の易経では、消費税増税について、卦辞は「火沢暌第3爻」、爻辞は「輿(くるま)を曳(ひ)かる。其の牛掣(とど)めらる。其の人天せられ、且つ劓(はなき)らる。初め无(な)く終り有り。」と出ていました。牛車を後ろへ引き戻され、自分の車を引いている牛は押し戻される。その乗り手は髪を切られ、鼻を斬られる。非常に残酷な内容でした。易経は、米中関係を懸念しているといえます。果たして安倍政権は10月以降の経済をどのように乗り切っていくのか注視する必要がありそうです。
 さて、AI時代に突入し、我が子をどんな道に進ませたらよいのか不安になっておられる方が増えてきました。 先日も、ある方から高校生の息子が理系に進むのか、文系に進むのか決めなくてはいけない。また中学生の次男にも悩んでいます。「我が子を、将来どのような道に進ませたらよいか、アドバイスを下さい。」というご質問がありました。お子さん自身が、自分は将来、〇〇になりたいと意思をはっきり表明できるお子さんは、ほとんどいません。そこで親の意見が、子どもの将来を大きく左右することになります。親の意見が、子どもの将来をこれほどまで大きく左右する時代はありませんでした。進路を間違えば、AIに仕事を代替されることになりますので、責任重大です。
 AIに代替された仕事があります。ニューヨークのウォール街です。花形であったトレーダーです。高度な専門知識を駆使して、株や債券を顧客にアドバイス、売買して巨額の利益を受けていた金融の専門家です。世界有数の投資会社ゴールドマン・サックスは、2000年に600人いたトレーダーが驚く事態となっています。現在は2人です。AIに完全に代替された仕事の例です。「君には大変世話になった、しかし、申し訳ないが、これからはAI投資に任せることにした」と顧客から言い渡され失業したトレーダーは数多くいます。さらにゴールドマンは、新しい消費者金融サービスを開始するにあたり、業務はすべてAIで運用され、従業員は1人もいないそうです。日本のメガバンクも万人単位で人員削減を行っていますが、いよいよAI化による人員淘汰です。
 子どもたちには、どんなアドバイスをすればよいでしょうか。親の世代が経験したことのない時代ですから、途方に暮れます。まず、考えなければならないことは、大きく時代の潮流を掴むことです。人類は、18世紀後半の蒸気機関に始まる第一波の産業革命に始まり、現在は第四波の産業革命にあるということです。第三波がデジタル革命と言われたのに対し、第四波は、AI(人工知能)、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーの3つで構成されます。この中で、最も重要なカギはAIです。AIは、社会の隅々にまで影響を与えていきます。どんな仕事に就いても必ず影響を受けると考えておかなければなりません。
 従って、まず、お子さんが将来、どんな分野についたとしても、必ずAIがある役割を担っていますので、基盤技術AIの知識は必須になります。小さいときからAIづくりを学ばせることです。順序としてはプログラミングからはいります。次に、AIを学ばせるのです。ここで、あることに気付きます。AIとは、プログラミング技術そのものが大事なのではなく、AIに学習させるデータが大事であることがわかります。AIに価値があるかどうかは、どのような学習データをAIに与えたかで決まります。名古屋のあるタクシー会社は、AIナビを使い、乗車需要を予測しています。名古屋市内にいる人間の数をスマホなどの発信データをもとにリアルタイムで人口を予測し、かつ、過去の乗降客地点の情報と合わせて、乗車率の高い地点を10分ごとに予測するというものです。人口移動データと乗車率というデータをAIに与えることによって、タクシーの流し運転の無駄をなくそうという取り組みです。いかにAIのプログラミング知識が優れていても、どのように使いこなすかという知恵がなければ役に立ちません。そのためにはAI以外の分野の知識が重要となります。また反対に、人口データと乗車率データをもち合わせていても、AIに組み込む知識がなければ、なにもできません。
 従って、AI時代に必要な力とは、2段構えとなります。基盤知識としてのAIと専門分野です。この2つがなければ、自信をもって生きることができないのです。片方だけでは、競争が激しく、生き延びることは大変です。順序としては、なるべく早いうちにAIに関する基礎的な技術を学ばせると同時に、自分が得意な、または興味がもてる分野をみつけ、磨きをかけることです。
 AIともう一つの専門的な領域、この2つが重なった人生を送れば、時代から取り残されるということはありません。そのようなことを知らず、従来型の専門家(例えば会計士や弁護士、世の中にある従来型の専門家)を目指すだけでは、決して生き残れません。ゴールドマン・サックスのトレーダーが600人から2人になったように、たとえ専門知識でも、AIにとって代わられる可能性の高い職業には決して就かないことです。また、大学が要らなくなる時代とも言われていますから、研究者になるのであれば、基礎知識としてAI技術がない人は、生き残れないことになります。
 もう一つ、大事なことがあります。長いコンサルティング経験から感じることですが、「考えて生きている人」は非常に少ないということです。「何も考えずに生きている人」は非常に多いというのが実感です。これからの時代は「考える人、AI」と「考えることをしない人」の間で2階層に分かれていくと思います。AIは自ら問いを立てて、自らを創造していくことはないでしょう。しかし、与えられた問いに対して分析し、考え、人間が想像もつかない答えを発見することでしょう。従って、AIに指示をする人間に優る者はありません。一方、人生とは何か、人々の幸せとは何かなど人間について考えることのない人は、AIに指示され機械のような人生を歩んでいくに違いありません。「考える人生をいかに歩むか」が、AI時代に浮かび上がってくる、裏側のもう一つのテーマになります。


代表取締役 松久 久也