正しい生き方を見失った世界の人々

 毎日、毎日、ネガティブなニュースばかりでうんざりします。世界の人々もみんな情緒不安、妄想状態といったところでしょうか。

 さて、わたしたちはASEAN-NAGOYA CLUBという活動を行ってきました。今月でちょうど9年目に入ります。日本は隣国、中国、韓国との対立が絶えません。今後の日本にとってASEAN諸国との関係が、カギを握るといってよいでしょう。かといって日本人はASEAN諸国の人をあまり知りません。いったい、人びとはどのようなことを考え、いま、どのような状況にあるのか。日本人はそうしたことをほとんど知りません。ましてやASEAN諸国のある国が、2045年前後に日本のGDPを追い抜いていくことなど知らない人ばかりです。そうした重要な地域であるにもかかわらず、日本人はASEAN諸国のことをあまり知りません。

 わたしたちはそうしたASEAN諸国から日本に来ている留学生に正しい日本の姿を知ってもらい、知日派育成のために勉強会をおこなってきました。9年目に入り、わたしたちとともに学んだ留学生は延べ2000人近くに上ります。勉強会は毎月2回、食事を挟んで、一回あたり約6時間にわたる対話を続けてきました。政治経済、文化伝統、人生観など様々なテーマを本音で語り合ってきました。

 今後何十年にわたって成長を遂げていく人たちですから、明らかに上昇志向があります。停滞著しい日本の若者とは全く違います。留学生を教えるのではなく日本の若者を何とかしてくださいという声をよく聞きます。受けて日本の若者を招いて支援しましたが、残念ながら意欲がありません。一生懸命支援するのですが、成長しないのです。ASEANの留学生が大人で日本人が子どもという構造で対話が成り立ちませんでした。日本の大きな問題ではないでしょうか。

 では、ASEAN諸国の人々は意欲的で何も問題がないかと言えば、そうではありません。これまでASEAN諸国から数多くの経済視察団を受け入れてきました。日本のように発展したい、日本人のように生きたいという希望があります。

 ところで今年1月、ASEAN諸国にとって「今後の重要なパートナー」はどこかを聞いた外務省調査があります。これまでずっと1位を保ってきた日本がついに中国に抜かれました。ASEAN諸国にとって、中国の存在感は日本よりはるかに大きいのです。アメリカや日本から、中国、ロシアを取るのか民主主義国家を取るのか、どちらを取るのかと彼らに迫りますが、どちらかを選択できないと言います。日本人には中国、ロシアはひどい国だとの認識がありますが、ASEAN諸国にとっては別の視点が存在します。ただ、中国を重要なパートナーと位置付けながら、警戒心があります。

 ASEAN諸国に対して日本は今や、経済力でプレゼンスを高めることはできなくなりました。中国は力があるように見えますが、GDPが日本よりはるかに大きいのは人口が多いというだけのことです。債務の罠にみられるように物量作戦では中国はやりたい放題です。今後、日本はどんどん存在感を失っていくのかといえば、糸口はあります。それは、物量作戦に対して、日本人の生き方です。先日ASEANのある国の経済団体のトップが名古屋に来られましたので、話をしました。会長が言うには「日本人の意志決定は世界で一番遅く、呆れると言いながら、日本人の『正直さ、約束を守る』ことについては本当に驚く」「どうしたら日本人のようになれるのか、教えてほしい」と言われました。私はここにヒントがあると思います。中国には、「正直さ、約束を守る」精神がありません。中国人の価値観は「金と権力」の2つです。そうした乱暴な国には弱点が山ほどあります。

 ASEAN諸国は歴史的に中国から大きな影響を受けています。当然、ネガティブな影響も受けています。先月、私が教育するASEANのある国の経営者が私にこんな質問をしてきました。「わが国には誠実な人間は愚かな人間であるという言い伝えがありますが、どう思いますか」と驚愕する質問がありました。私は「そのようなことを伝えた人間が愚かだと思います」と答えました。これはおそらく、金と権力を得ることが人生の指針である中国文化の影響だろうと推察しています。その国はさらに選挙における買収工作が合法で、中国企業が村人に金を配り、「喜ばれて」地域を支配しています。また、そうした中国の影響を受けた富裕層が多く、私の知る経営者はひどく利己的な人が目立ちます。一般民衆のことを何も考えていないという反応をします。

 しかし、ASEAN諸国にも心ある人も多くいるはずです。日本がアジアの中で唯一先進国になれたのは、普通の人が誠実に生きてきたことに大きな理由があります。ASEAN諸国が健全に発展するためには、普通の人々が正しい生き方を身につける必要があります。今は経済をけん引している富裕層経営者が母国の健全な発展に関心がなく、自らの欲望に突き進んでいます。私はこうしたこの国の大人たちを教育しても手遅れだと考えています。

 ASEAN-NAGOYA CLUB理事会は、この他国の健全な発展を願うために、幼児教育を支援することにしました。今年の10月にボランティアで幼稚園を開園する準備をしています。正しく生きることを学んだ子供たちが、何十年先に母国を立派な国にする人材が育つであろうことを願っています。今後のアジアにおける日本のプレゼンスは、何十年先を見通したそうした活動にあるのではないかと思っています。

代表取締役 松久 久也