アジャイル経営

 先般、あるトヨタ系の中核企業のリーダーと話をする機会があった。強みについての話になった。てっきり先端技術の話になるかと思ったら、いま、最大の売りは“アジャイル”だという。
 その背景はこうだ。
 「幾何級数的な成長には爆発的な力があるので、21世紀には、現在の成長率で2万年分の成長を遂げるだろう。組織はいよいよ迅速に自分たち自身を見直す必要がある」。(レイ・カーツワイル)
 「物理的テクノロジーは、幾何級数的に加速する。いっぽう社会的テクノロジーは、人間が変われる範囲内の速度で進化するので、ずっと遅い。バイオ、ロボ、ナノなどのテクノロジーの変化の速度が、法、倫理、政策、運用、戦略に、企業も個人も独力では取り組めないようなチャンスとリスクをもたらしている」。(トーマス・フリードマン)
 いよいよ経営者の意思決定のスタイルを変えなければならない時が来た。そのカギは時間、スピードである。意思決定スタイルの変化は、まずIT業界から起こった。ソフトウェア開発プロジェクトの多くはウォーターホール型と呼ばれ、納品に向けて、作り手の都合で一つひとつ問題をクリアする方式で進められていた。しかし、長期間にわたって一生懸命努力したにもかかわらず、ユーザーのニーズを満たすことはできず、破綻することが多かった。開発者がユーザーとの対話を軽視した結果である。幾何級数的な進化に入った世界の市場は、目まぐるしく変化し、安定した時期が続くということはなくなった。
 絶えず市場の変化に合わせて、迅速に経営のかじ取りを変化させていくという手法がアジャイルである。今や世界中で、製造業のみならず、全業界、かつ、技術、営業、人事、教育など全分野に広がっている。アジャイル経営は、幾何級数時代に入った時代の必然である。しかも、市場の変化に合わせて迅速に経営の意思決定を行うために、どのような基盤技術を使えばよいか。世界が見出した答えは、“カイゼン”だった。つまり、アジャイルとカイゼンを融合させたモデルが今後の経営の規範となる。Agile Lean(カイゼンは欧米ではLeanと呼ばれる)と言われる手法である。冒頭で既述したトヨタ系の中核企業の売りが、Agileというのだが、自ら長年培ってきた技術を、逆輸入し、それを売りものにするという日本人の発想は、不思議なものである。
 時代の変化が速くなったので、アジャイル的に経営の意思決定を迅速にしなければならないという認識だけでは、うまくいかない。日々企業に挙がってくる案件のプロセスを構造に分けることである。Backlog,Doing,Problem,Solution,Doneというようにプロセスを見える化し、毎日ボードを見ながら、経営者、管理者、担当者が膝を詰めながら対話をすることが重要になってくる。仕事に対する人間の認識にはズレが生じ、これが仕事を停滞させたり、破綻させたりする。こうした個人差をなくすためには、仕事のプロセスの見える化が必須となる。毎日、Agileボードを見ながら対話をすれば、市場の変化との微妙なズレも“早期発見”できる。早期に発見できれば、迅速に軌道修正ができる。
 私たちは、すでにAgile Leanを導入しているが、意思決定の正確性は格段に上がっていると認識している。またAgile Leanは意思決定の適確性の向上のみならず、市場の変化と一体化したダイナミズムももたらしてくれる。2019年もいよいよ残すところ、あとわずか。年明けから、幾何級数時代を迎え撃つべく、アジャイル経営に着手なさってはと思う。

代表取締役 松久 久也