コロナ後を見据えて

 志村けんさん、あれほど存在感のある人が突然いなくなる。これがコロナの怖さです。全ての世代に愛された素晴らしい人生ではなかったでしょうか。ある一つのことに、誠実に真剣に生きた人として、多くの人の記憶に残ることと思います。心からご冥福をお祈りします。
 世界を覆うコロナ禍は、後世の教科書に「二十一世紀のパンデミック」として載ることでしょう。観光産業、飲食業界から悲鳴があがり、その影響は製造業からサービス業にいたるまで、全産業に及んでいます。全世界の人々が、同時期に恐怖に怯えた時代は、第一次世界大戦、スペイン風邪、世界大恐慌、第二次世界大戦以来です。
 さて、ここで頭を切り替えたいと思います。果てしない闘いになるかもしれませんが、先の大戦、恐慌がそうであったように、必ず、終わります。経営者の皆さんにとって、コロナ後の時代がどうなるかです。世界規模で広がった惨禍のあとには、必ず、新しい時代がやってきます。大きな変化には大きなチャンスが付随してきます。私たちは、そこをしっかり洞察し、生き抜いていかなければなりません。ただ、コロナが終息するのを、息をひそめて待つだけの企業。コロナ後を見据えて、戦略を組み換える企業、大きな差となって出てくるのではないでしょうか。
 どんな時代が来るかを洞察力と創造力で、突破していただきたいと思います。ここでは4つのキーワードについて触れておきたいと思います。

  1.  まず、SDGs(持続可能な開発目標)です。先回も述べましたが、新型コロナが人類に対して、持続可能性について警告を発したのではないかという見方です。昨日、川縁を散歩していましたら、3人の若者がスケートボードに興じていました。「人間は勝手なことばかりして自然にきついことばかりやって来た。コロナが思い知らせているに違いないんだ」と聞こえてきました。一見、せんぱくな若者のように見えましたが、日頃彼らはそうしたことを感じながら生きてきたに違いありません。私たちは持続可能な世界を他人事として眺めてきました。自分が地球のためによいことをしても、関心を持たない国、人、ルールを守らない国、人であふれ、人類が足並みを揃えて持続可能な社会をつくることは、到底無理だという諦めがあります。みんながそういう思いをもてば、地球の危機が止まらないのは明らかです。そうした人類の自覚の無さに対して出された大いなる声。大震災、津波、原発事故、巨大台風、記録的豪雨、そして今回の新型コロナ、どうも一連の出来事として理解したほうがよさそうです。ここ二百年、私たちは科学を発展させ、大きな恩恵を受けてきました。人類は自信を深め、自分たちの知識と技術で自然をコントロールできると思いはじめました。そこに今回、きつい形で思い知らされることになりました。私たち企業は、際限のない拡張主義で売上、利益を追求してきました。地球資源は有限であることを知りながら、自然の摂理に反する行為を続けてきました。終わりのない競争社会をいかに、調和のとれた社会にするのか、人類は真剣に議論するに違いありません。そのキーワードがSDGsです。SDGs的な調和のとれた経営とは何か、他社との比較で生き延びようとしたものさしを、いかに自社の考え方に基づいたものさしに切り替えるか、そうした試みがなされることでしょう。私は何年も前から、毎日、大気の汚れを専門サイトでチェックしているのですが、皮肉にもコロナ発生後の大気は非常にきれいになっています。温暖化も抑制されているのは明らかです。
  2.  SDGsと関連があるのですが、手に入れたいものは何でも手に入るという社会を生み出したことによって、私たちは快楽主義に溺れてきました。「楽しくなければ人生じゃない」という考え方です。人生は楽しいことばかりで、嫌なことはやらなくてよいという生き方です。とくに最近の若い人にこの傾向が強くでています。もちろん自分の適性にないことを我慢することはありませんが、たとえ好きなことをやっていても、たくさんの壁を乗り越えていかなければなりません。そうした意味では、楽しいことは長続きしないのです。二十一世紀に入ってから日本では、地震、津波、原発と続き、今回のコロナです。今後も形を変えて、さまざまな困難が訪れるに違いありません。快楽主義は終焉を迎え、私たちは楽しい時も苦しい時も真剣に生き抜くという選択を迫られるに違いありません。
  3.  さて、次のキーワードです。リモートです。人類はすでにSNSという手段で個人がつながりました。しかし、企業活動では依然としてリアルな対面社会です。直接、会って話をしなければ事が進まないというものです。しかし、会ったからといって、商談が明確に進むというものでもありません。不用意な発言で、商談が流れることはあり、よりよいプランがあったはずなのに、その場の流れで、なんとなく決まってしまったということがあります。もっとお互いが考えていることを知り、お互いのギャップを緻密に埋めていくことができたら、よりよい成果が得られたかもしれません。そうした問題をリモートが解決する可能性があるのです。コロナの影響で、止むを得ず、リモートを導入している企業が多いのですが、実は、リモート経済の奥深さをここで知ることになるのではないでしょうか。TV画面に相手方が映っているだけではなく、先方が何を考え、何を悩み、どのような解決方法を求めているのかを知ることができる。私たちはリアルタイムに必要情報を画面に表示することで、正確に顧客ニーズに接近することができるのです。事前の交渉はリモートで深く行い、最終的な契約行為かお礼を述べるときにリアルな対面作業を行う。こんな可能性が出てきます。こうしたリモートの大きな可能性は、コロナ禍がなければ決して気づくことはなかったかもしれません。コロナ後の経済として大きなキーワードであるのはまちがいありません。
  4.  最後に、インフレです。「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、各国・地域が検討している財政出動額が200兆円超と金融危機当時を上回り、年間で史上最大規模に膨らむ見込みだ」。(出所 ワシントン時事通信 2020年3月22日) 財政発動はリーマン危機を上回ります。巨額の財政出動を行えば、途方もない債務が残ります。とくに日本は世界でも最悪の財政状況であることはみなさんご承知のとおりです。今回のコロナによって、日本の財政状況は後戻りできない水準に引き上げられ、その結果として、インフレのシナリオが出てくるのは必然ではないでしょうか。コロナ後の日本経済には、インフレ要注意です。インフレに備えた企業経営、財産の保全を考えておく時期にはいったと思います。

「大きな変化には大きなチャンスあり」と頭を切り替え、新しく生まれ変わるために自社独自のキーワードを発見していくことが、とても重要です。


代表取締役 松久 久也