日本は果たしてデジタル先進国になれるか

 コロナ禍で身動き取れない年にあって、ひとつの動きがありました。「政府は行政手続きや民間で書面や対面での対応を義務付けている規制に関し、デジタル化で代替できるものから撤廃する検討に入った。工程表をつくり(1)押印廃止(2)書面・対面の撤廃(3)常駐・専任義務の廃止(4)税・保険料払いのデジタル化――の4段階で順に取り組む」。(2020年10月9日 日経新聞)
 デジタル庁が創設されることになりました。日本はいまや先進国の中で最下位。韓国、台湾、中国などにも大きく引き離され、世界デジタルランキング27位です。総合的な世界競争力では34位であり、目を覆いたくなります。よくもここまで堕ちてきたという感があります。
 いまだに、FAXしか受け付けない企業や人がいる日本です。役所の仕事ぶりはみなさんご存知の通りです。日本の仕事の風景は、書類とハンコがセットになっています。このセットもので仕事の生産性は劇的に下がります。過去に作成された書類を分厚いファイルの中から、1日がかりで探している人もたくさんいます。
 私たちの思考スピードは目の前の対象物に依存します。例えば紙とエンピツで仕事をすれば、出来上がりの紙にもとづいて、議論をすることになります。しかも議論をするためには、参加者と日程調整を経てはじめて議論ができます。恐らく1枚の稟議書が議論を経て、実行に移されるのに、半年、1年かかります。私たち日本人が行う1つの思考に対して、先進国の人々とは複数の思考にチャレンジしています。他国に比して、私たちの国が相対的に日々劣化するのは当然といえます。
 これに対して、出来上がった電子文書を関係者に送信し、オンライン会議を任意に行い、対面で最終会議を行えば、意思決定のプロセスは時間単位で進みます。このスピードに馴れ親しんでいる人は、アナログな日本の人と比べると、日本人が1カ月かかることを彼らは1日でできるのではないでしょうか。
 下のグラフに見られるように世界が発展してきたのは生産性の向上によります。生産性の向上がなければ社会は停滞します。過去の日本の生産性は酷いものでした。かろうじて製造業が高い生産性を維持してきましたが、直近の発表(OECD)では、すべての産業が先進国最低となってしまいました。

[出所:This chart shows every major technological innovation in the last 150 years ― and how they have changed the way we work]

 生産性向上とは作業効率を上げることだけではありません。思考のスピードを上げることがとても大事です。従来のままの思考スピードでデジタル化しても、生産性は作業の効率化にとどまります。仕事ができる国の人々とは思考が速く、行動へのシフトが速いといえます。昨年からはじまった働き方改革は実は非常に意識の低いもので、世界水準から遠く離れたものです。
 必要なのは意思決定のスピードです。私たちの国の弱点は意思決定の遅さにあるといわれています。意思決定をしたときには、すでに前提となる世の中が変わってしまう時代に生きていることを忘れてはなりません。現代に生きているにも関わらず日本人だけが、遠い昔の世界に生きることになり、世界観、価値観を世界の人々と共有できなくなります。
 人工知能を軸としたデジタル産業革命では、デジタルを使いこなした国の生産性は幾何級数的に伸びていきます。もしデジタル庁の動きに対して阻止する人々がいるとすれば、日本は奈落の底に落ちていくのは間違いありません。

代表取締役 松久 久也