「しない経営」を徹底し、ワークマンの業績を押し上げた名経営者 土屋哲雄

 緊急宣言が発動され、感染者数が落ち着き、緊急宣言を解除した矢先に、感染者数が増加し、ついに第4波まできた新型コロナウイルス感染症。経営の舵取りが困難を極める中、作業着等の販売で日本最大手のワークマンの業績を押し上げた名経営者 土屋哲雄を今回の題材とします。

 土屋哲雄は、1952(昭和27)年、埼玉県深谷市に生まれました。埼玉県立熊谷高等学校を経て、1971(昭和46)年に東京大学経済学部に入学し、1975(昭和50)年、東京大学経済学部を卒業後、三井物産に入社しています。1988(昭和63)年、社会起業制度を活用し、三井物産デジタルを立ち上げ代表取締役社長に就任、2006(平成18)年に三井情報開発の取締役執行役員を経て、2012(平成24)年に退社し、同年、ワークマンの常務取締役に就任します。2019(令和1)年6月、専務取締役となり現在に至ります。
 土屋が、ワークマンに入社した当時、創業者である叔父の土屋嘉雄会長からは、「この会社では何もしなくていい」と言われていました。土屋は、この言葉の真意を、「お前がこれまでやってきたような小さな事業をやられては迷惑だ。やるならもっと大きな事業をやれ。そのためにもしばらくは腰を据えて勉強しなさい。」ということと捉え、過去から決別しようと決心しています。
 土屋が入社した当時のワークマンは、個人向けの作業服の販売という小さな市場を選択し、競争相手がいないブルーオーシャンを泳いでいましたが、販売の対象である職人・作業員が減少し、今後の経営は不透明な状況になっていました。
 そこで、土屋は、アンケート調査を行い、一般のお客様が作業服の機能性を日常生活に求めていることに気づき、2018(平成30)年、既存のワークマンのイメージと異なる、一般のお客様を意識した、おしゃれなアウトドアショップのようなワークマンプラスを立ち上げました。
 土屋は、「影響力のあるオピニオンリーダー(アンバサダー)の言うことを丸吞みし、製品に反映させた方が、一般人1,000人に意見を聞くより効果的である。」言います。ワークマン製品のユニークな使い方を紹介してくれるブロガーやYouTuberに直接話を聞いたり、ブロガー向けの「新製品発表会」を年2回開催して積極的に意見を集めて、製品に反映させたり、理由はわからないが売れている製品について、誰が、どのように使っているか丹念に調べ客層の拡大に活用しています。

 土屋は、次の3つの「しないこと」を浸透させて、ワークマンプラスでの客層拡大とともに業績を向上させています。

(1)社員のストレスになることはしない。

経営者が目標を一つに定め、それを“愚直”に継続すれば会社が変わるとし、無理な期限を設定させない、ノルマの廃止、個人の頑張りに頼らず、社員が盛り上げて前向きに仕事をしてもらうようにする。

(2)ワークマンらしくないことはしない。

単価を上げるとお客様が離れてしまうので、高粗利が望めるアパレル業界のマネはしない。

(3)価値を生まないことはしない。

社内行事等を廃止し、社員がやらなくてもいい仕事に時間を取られる迷惑なことが多いとして、会社幹部がセミナー、勉強会などで聞きかじったことをすぐに自社に当てはめることを禁止。

 ワークマンは、上記のことに取り組んでから、売上高が、2018(平成30)年3月期 560億円→2021(令和3)年3月期 990億円、営業利益が、2018(平成30)年3月期 118億円→2021(令和3)年3月期 233億円と大幅に業績向上しています。
 土屋自身も、「しない経営」を推進しすぎて、決算を遅らせたり、開店準備が遅れたりすることがあったようですが、我慢をすることを決めて乗り切ったようです。

 経営者の方々は、コロナ禍で大変な時期を乗り越えるため、様々な方策を考えられていると思われますが、資金等の経営資源には限りがあります。経営学者のマイケル・E・ポーターも『戦略とは捨てること』と述べています。ワークマンの土屋哲雄の「しない」ことを決める経営も大切ではないでしょうか。

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加藤 博司