名著『貞観政要』を読む

 ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まって3カ月近くになりますが、停戦合意が上手くいかず、ウクライナ市民が巻き添えになり死傷者が何万人もでているようです。また、ロシア軍兵士も戦争の長期化により、モチベーションの低下がみられるようです。こうして思うのは、国家の指導者の良識によって国家の舵取りが狂うことがあるということです。会社でいえば、経営者がこれにあたります。今回は、指導者、経営者等のリーダーの在り方の教科書『貞観政要』を題材とします。

 『貞観政要』とは、今から1400年前(西暦626年)の中国で当時の唐の第二代皇帝として即位した李世民(西暦598~649年)が、側近の房玄齢、杜如晦、魏徴などとの日常の遣り取りから臣下と共に理想の皇帝像を模索した問答集で、李世民の死後40~50年後に、呉兢により編纂された言行録です。因みに、「貞観」は、李世民の在位の年号で、「政要」は、政治の要諦のことです。

 『貞観政要』のなかで、リーダーや人としての肝要なことが書かれていますので、いくつか列挙します。

  1. (1)“その身正しければ令せずして行わる”
     上に立つ者はまず我が身を正せ、為政者が自分の姿勢が正しければ、命令をするまでもなく実行される。自分の姿勢が正しくなければ、どんなに命令しても人はついて来ない。
  2. (2)“利を見ては義を思う”
     利益を追求するときは、常に義を念頭において、義を踏み外さないようにする。
  3. (3)“大事は皆小事より起こる”
     小事だからと言って捨てておけば、大事が起こったときには、もはや手のつけようがない。最も多いのが油断である。
     自らの優勢を過信して敵をなめてかかったり、なまじ連戦連勝をした後などにこれが生まれてくる。そういう心の隙から判断ミスが生じ、取返しのつかない敗北を招く。
  4. (4)“君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり”
     明君の明君たるゆえんは、広く臣下の意見に耳を傾けるところにあり、また、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下の言うことしか信じないところにある。
     君主たる者が臣下の意見に広く耳を傾ければ、一部の側近に目や耳を塞がれることなく、よく下々の実情を知ることができる。
  5. (5)“君は舟なり、人は水なり、水はよく舟を載せ、またよく舟を覆す”
     民の意向に逆らった政治を行えば、君主の座など、いつひっくり返ってもおかしくない。

 『貞観政要』は、①混沌する現代社会の中で、組織をどう運営するか、②強いリーダーシップ、③聞く耳をもつことの重要性、④部下の存在、➄創業か守成かなどを考える。良い教材となっています。

 実際、『貞観政要』は、モンゴル帝国のフビライや、清の六代皇帝乾隆帝、日本では、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の登場人物の北条政子、江戸時代の初代将軍徳川家康、明治天皇が帝王学を学ぶために愛読したと言われています。

 政界だけでなく、ビジネス界でも、資源高・円安により材料費の高騰・従業員の労働時間・残業代などの労務管理・SNSの誹謗中傷など外部環境、内部環境とも厳しくなり、今こそ、経営者の在り方が問われる時代になってきました。『貞観政要』を読まれて、今後の会社の舵取りの参考にされてはいかがでしょうか。

 『貞観政要』は、全十巻四十纂の膨大な読書量になりますので、角川ソフィア文庫より出版されている ビギナーズ・クラシックス中国の古典『貞観政要』などの読みやすい書籍をお勧めします。

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加藤 博司