名著『失敗の本質』を読む
今年も8月を迎え、6日の広島原爆の日、9日の長崎原爆の日、15日の終戦記念日と77年前の戦争で日本が敗戦したことを思い出される日がやってきました。俳句の世界では知られている「八月や六日九日十五日」という句があります。「戦争を忘れないように」と心に刻まれるよう詠まれたとされています。
終戦後、日本の復興は目覚ましいものでしたが、大東亜戦争の日本軍の構造欠陥が、1990年代のバブル崩壊、2011年東日本大震災、2020年コロナ禍と政府の対応の不手際などにより、現代の日本の様々な組織に見受けられるようになりました。
今回は、大東亜戦争で敗戦を曝した原因を究明し、教訓を引き出した『失敗の本質』を題材とします。
『失敗の本質』は、高度成長期を経てバブル景気に向かう前の1980(昭和55)年に、日本が何故、大東亜戦争に突入したかを問うのではなく、何故敗戦したかという問いの本来の意味にこだわり、開戦後の日本軍の「戦い方」、「負け方」を研究対象として著されています。
『失敗の本質』では、1941(昭和16)年12月~1945(昭和20)年8月の戦いで失敗した作戦事例を、ノモンハン事件・ミッドウェー海戦・ガダルカナル作戦・インパール作戦・レイテ海戦・沖縄戦の6つに分けています。
ガダルカナル作戦の項では、アメリカ軍が、ガダルカナルの攻撃が最終目的である日本本土への直撃の足掛かりとなるという基本的なデザインをもって重要視して戦ったのに対し、日本軍は、主力を中国において、陸軍・海軍がバラバラに、かつ、現実味のない戦争終結観をもって戦ってしまい、陸軍の敗戦のターニングポイントになっています。
総じて日本軍には、戦略的なグランドデザイン(全体にわたる壮大な計画、構想)が欠如していたようです。
日本について以前から言われていたことですが、「空気の支配」があり、日本軍は事実から法則を析出するという本来の意味での帰納法(元々あるデータを集めてパターンを見つけ出す倫理的推論方法)を持たず、戦略を決定する時に、多分に情緒や空気が支配する傾向があり、神話的思考から脱しきれず、科学的思考を共有していませんでした。
先頃の参議院選挙でも、安倍元首相が襲撃されると、追悼の意味で自民党への投票が増えたのも多分にその傾向が出ていたようです。
6つの戦いに言えることですが、日本軍が作戦に失敗した要因は以下のことでした。
- ① 明確な戦略や目的が存在せず、目的の曖昧な作戦を立てていた。
- ② 司令部と現地軍との戦略思想を統一する努力をせず、特に司令部は、現地の状況の変化に鈍感であった。
- ③ 戦争をどのように終わらせるかという目標が明確ではなかった。
- ④ 戦局が厳しさを増しているなかでも主観と独善によって希望的な観測を持ち続け、曖昧な目的のもとで戦闘を継続したので、現実と合理的な論理によって漸次、破壊された。
実際に、日本軍は、1941(昭和16)年12月の開戦から1942(昭和17)年の中頃までは、戦略的攻勢だったと言われており、戦争全体を有利なうちに終結させるというグランドデザインが欠落していた為に、敗戦に至っています。
『失敗の本質』は、日本軍の敗因分析から様々な教訓を引き出し、勝てる組織になる為の方法を提言しています。しかし、今もなお実行出来ていない組織が多いのが現実のようです。今こそ『失敗の本質』を読んでいただき、混乱の時代を乗り切る知恵を吸収するときではないでしょうか。
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加藤 博司