易経に読み解くビジネス(10)
どうする、消費税増税

 長いゴールデンウィークを、どのように過ごされたでしょうか。日頃の疲れを癒された方、長い休みで“休み疲れ”した方、様々ではないでしょうか。人生100年時代になれば、定年後30年以上を過ごさなければなりません。30年以上にわたり、仕事もしないで、「毎日を日曜日」として過ごすことに、耐えられない人もでてきます。私たちは、無目的な日々を過ごすことには、耐えられないのです。
 人生100年時代と言われる今日、現役のときから、意義ある時の過ごし方を準備しておく必要があります。私は20歳でモンテーニュに出会い、いろいろな見方を学びました。彼は、37歳で引退し、以後、人間に関する考察に生涯を送り、亡くなる当日まで、エセー(随想録)を書いていたといわれます。モンテーニュに出会ってから、この不思議な人間と人生を探求し、理解できたことがずいぶん増えました。これをまとめることを生涯のテーマにするつもりです。どんなことでもよいと思います。みなさんも、生涯続けられるテーマを見つけられることです。
 さて、令和1年がはじまりました。穏やかなスタートとはならないようです。米中の対立が激しさを増してきました。以前、このテーマを取り上げました。単なる貿易戦争ではなく、覇権争いですので、両国は長きにわたり闘争を繰り広げていくに違いありません。相互に25%の関税を上乗せするという報復合戦になっていますので、世界経済は今後、急速に縮小していくに違いありません。
 先ごろ、財務省は、国債や借入金などを合わせたいわゆる「国の借金」が、昨年度末の時点で1103兆円あまりとなり、過去最大を更新したことを発表しました。企業で言えば売り上げ(GDP約550兆円)の2倍の借金です。破滅的です。時の首相が、消費税増税を表明するのは自然なことです。しかし、どの国の国民も、税金に対して本当にナーバスになります。安倍首相にとって、日本の財政健全化はとても大きな政策課題です。しかし、10%への引き上げに関し、14年11月、16年6月の二度にわたり、消費税増税の延期をしました。その約束の期限が10月に迫ってきました。
 安倍首相は、「リーマン級」の出来事がなければ、増税すると述べてきました。二度も延期をしてきた経緯からすれば、「必ず実行」に移さなければ国際社会の信用を失うという危機感があります。安倍首相が逡巡していることを見透かしたように、OECDとIMFがコメントを出しています。経済協力開発機構(OECD)は4月15日、日本の経済政策についての提言を公表。「日本が十分に財政健全化を進めるためには、20~26%への税率引き上げが必要だ」(2019年4月15日 朝日新聞)としている。また、IMFは、増税再延期なら「日本の信用失う」とし、「日本は将来的には消費税率を少なくとも15%まで段階的に引き上げるべきだ」(2019年4月29日 朝日新聞)と提案している。どれも厳しい指摘です。過去2回の増税によって成長が鈍化したのは、当時の実質国内総生産(GDP)成長率をみると明らかですので、躊躇するのも已むをえません。
 安倍首相は、国際情勢に「リーマン級」の大きな変化がなければ10%に引き上げると宣言していす。米中の対立が、「リーマン級」に匹敵するのかどうかが重要な点です。誰も知らなかったサブプライム問題に端を発したリーマンショックとは異なり、誰もが知り得る原因、米中の激突で起こった現象ですから、驚きはないかもしれません。しかし、前者が純粋に経済問題であったのに対し、米中の激突は、経済問題であると同時に政治問題です。純粋な経済問題には冷静な人間の判断で乗り切ることができます。しかし、米中の激突は、メンツをかけた問題になっていますので、収拾がつかなくなるリスクを抱えています。リーマンよりもより質が悪いかもしれません。
 内閣府が発表した3月の景気動向指数からみた国内景気の基調判断は6年2カ月ぶりに「悪化」となりました。25%の攻防となれば、ますます悪化することは避けられません。果たして安倍首相は、消費税増税に踏み切るのが正しいのでしょうか。この消費税増税について、易経は、どんな見方をするのでしょう。見てみましょう。
 消費税増税の判断につきましては、「火沢暌第3爻」となります。
 卦辞は「象に曰く、暌(けい)は火動いて上り、沢動いて下る。二女同居して其の志同行せず。」です。火が動いて上り、沢が動いて下ろうとする。二人の娘が同じ家に同居するけれども、その志は並んでは行かない。背き合うと述べています。どのような解釈になるでしょうか。このタイミングにおける消費税増税という火と、景気という沢は背き合う関係です。つまり、米中対立は、消費税増税と景気維持を背き合う関係にします。国際情勢に変化がなければ、消費税増税を行ったとしても、軽減税率の導入、幼児教育・保育等の無償化、中小小売店でのポイント還元、自動車保有や住宅購入・修繕時などの減税策を導入する政策を用意すれば、何とか持ちこたえることができます。しかし、米中が激突している今、増税に踏み切るのは危ないと述べています。
 爻辞はどうでしょうか。爻辞「輿(くるま)を曳(ひ)かる。其の牛掣(とど)めらる。其の人天せられ、且つ劓(はなき)らる。初め无(な)く終り有り。)牛車を後ろへ引き戻される。自分の車を引いている牛は押し戻される。その乗り手は髪を切られ、鼻を斬られる。非常に残酷な内容。難儀に遭う。ゆえに賢者は道理に順って安らかに行い、知者は吉凶の前兆を見て取って正しい道を進む。
 牛車(景気)は後ろへ引き戻され、乗り手である安倍首相は髪を切られ、鼻を斬られるという散々なことになると述べています。想像するに、米中の影響は日を追うごとに深刻なものになる可能性があります。景気指標には、すでに前兆は出ていますが、ちょうど、消費税増税を実施する秋には、景気は目に見えて悪くなっている可能性があるというのです。
 判断の道理としては、“時期ではなく”、“3月の直近の指標から前兆を読み取り”賢者、知者として、消費税増税を再延期することであると言います。また、財政再建と景気維持という二律背反のテーマに対して、冷静に取り組んだ再々再延期について、国際社会は理解を示す“初め无(な)く終り有り”(はじめは悪いが終わりはよいであろう)ことになるだろうと言います。もちろん、再々再延期ですから、同日選挙というプロセスが現実的となると易経は見ています。


 代表取締役 松久久也