新型肺炎からみえるもの
新型肺炎の猛威が、続いています。今月、小林秀雄が逗留した奈良公園内にある料理旅館に泊まることを楽しみにしていたのですが、新型肺炎患者が奈良公園に立ち寄った報道がなされ、断念せざるをえなくなりました。皆さんの中にも大きな影響を受けておられる方が多いものと拝察いたします。終息にはまだ時間がかかりそうです。地震、豪雨、台風、大規模火災、米中対立、香港、イラン、北朝鮮、新型肺炎等々。地球規模で災難が続いています。穏やかで心温まる話題はニュースになりにくいのですが、それにしても悪いニュースが続きます。
新型肺炎がここまで拡散したのは、やはり中国の政治体制にあるといってもよいでしょう。地方政府の幹部は保身のため、偽りの報告をするのは「文化」とさえなっています。現在の、患者数及び死者数はいったい全体の何割くらいに相当するのでしょうか。「権力は腐敗の傾向がある。絶対的権力は絶対的に腐敗する」という格言がありますが、中央政府も地方政府も、「絶対権力者」であるため、たとえ新型肺炎が収まったとしても、今後も、様々な問題を引き起こすことでしょう。中国はハイテク先進国になってきていますが、その動機が権力にある以上、人類はかなり難しい問題に直面するのではないでしょうか。
さて、世界中で起こっている現象、企業で起こっている現象、これらネガティブな現象に共通しているのはなんでしょうか。様々な要因があると思いますが、やはり、こころの問題が大きいのではないでしょうか。私たち現代人は、正しい生き方をしていないようにみえます。こんな話をすると、今の人たちは、正しい基準は人それぞれだといいます。おそらく、そのようにいう人に、正しい生活をしている人はいません。人生に正しい基準を持つことが面倒なのです。正しいか否かという基準を放棄すれば、人の行動基準は、自己の利益になります。
ギュゲスの指輪という話があります。プラトンの『国家』という著書にでてきます。羊飼いのギュゲスは、玉受けを内側に回すと自分の姿を消すことができる指輪を持っていました。その指輪を使って、ギュゲスは王妃と共謀して王を殺してしまいました。この指輪をはめていますので彼の姿は見えません。誰にもバレないならば、ギュゲスは悪人だと言えないのではないかという疑問が出てきます。しかし、ソクラテスは、魂が歪む以上、それはやはり不正にほかならないといいます。ソクラテスはよいということの根拠を、他人の判断によるのではなく、自分自身にもとめます。自分自身に聞けばわかることだといいます。嘘は自分の本当の姿を偽ることになる。どんな嘘も自分自身をだますことはできず、知らないうちに自分自身の魂を傷つけることになるといいます。
どのように生きたらよいのかを、実はみんな知っている。知っているけれども、他人の安易な考え方を探し、都合の良い判断を見つけたら、それをいいことにして、自分を騙すのです。今、世界中の指導者を中心にして、人々はこうした現象に塗られているのかもしれません。
枢軸時代の中国・中庸にこんなことばがあります。「尚わくは屋漏(おくろう)に愧(は)じざれ」(中庸・三十三章)願わくは部屋の奥に一人でいても、人に見られて恥ずかしくないような態度でありたい。
代表取締役 松久 久也