コロナの終息と中国

 毎日のニュース、報道番組はコロナ禍一色です。ニュース番組の9割はコロナ関連の内容です。コロナは致死率が高い病気ですので、怖い病気であることに違いはありません。ファクトフルネスという書物が一時期、評判になりました。私たちの印象と世間の事実とは随分違うものだという内容でした。厚労省の人口動態の速報値(令和2年12月21日報)によれば、昨年1~10月の日本の死亡数は前年同期より1万4千人少ないことが分かっています。下記のグラフが、昨年亡くなった方の死因別の詳報です。私たちは連日、新型コロナ感染者、死亡者数の増減に接し、気が滅入るという人が多いのですが、死者数の実態は以下のグラフの通りです。肺炎、心疾患、脳血管疾患、インフルエンザによる死者数は前年に比べて激減しています。もし新型コロナがなければ、例年、新型コロナよりはるかに死者数が多いインフルエンザ死者数にどれだけの人が関心を寄せたことでしょう。私たちの反応というものは、事実とは大きく異なるものだということがわかります。こうした事実を強調すると、人々はコロナを軽視し、感染爆発が起こるから報道しないという暗黙の了解があります。つまり、事実を報道するのではなく、連日の報道には主観が介在していることになります。事実は下のグラフなのです。

 緊急事態宣言の効果は出ていますが、経済活動を停止していますので、当然かもしれません。しかし、ワクチンが行きわたるまでは、緊急事態宣言、感染者数の減少、宣言解除、感染者数の増加、緊急事態宣言という繰り返しが続くのではないでしょうか。
 ところでオリンピックの最終判断がいよいよ迫ってきました。政府、JOC、IOCは運を天に任せる心境ではないでしょうか。世界に目を転じればミャンマーが先祖がえりをしました。中国は強欲に覇権国家に突き進んでいます。朝鮮半島は迷妄し、世界経済はまだ底が見えません。また経済の実態を反映しない株高、世界恐慌以来の事態にもかかわらず株高とは常軌を逸しているというのが今日の姿ではないでしょうか。数え上げればきりがないほど不安定な様相に満ちています。IMFの報告によれば、コロナ禍克服のためになりふり構わず財政支出したことにより、今や世界のGDPに匹敵する政府残高となっています。コロナ明けのインフレに備えておいたほうがよいかもしれません。
 それにしても、あまりに無秩序な現象があちこちで頻繁に起きるようになりました。以前は無秩序をもたらす行動は恥をさらけだすことであり、人々はためらいがありました。それがいまや、人間の浅ましい行動が次々と表に出てくるようになりました。嘘も平気で通るようになり、人々の混乱は広がるばかりです。「ならぬことはならぬ」という自制心が人間を良識ある存在にしていましたが、抑えていた情動のたがが外れてしまいました。それが個人のみならず国家レベルまで拡大していることに気づきます。大人が粗暴な行動に出れば子どもはなんのためらいもなく同様の行動をするように、国家が悪態をつくことで、その様相は世界中の国家、個人に広がりを見せています。口火を切ったのはトランプ大統領ですが、それに呼応したのが、これも超大国の中国となれば、世界は混乱の渦に巻き込まれるのは必至といえます。非合理、不誠実、不正義、不善、傲慢不遜が堂々とあからさまに正面を突破するようになってきました。人間は、一旦道理から外れた行動をするとなかなか元には戻れません。おそらく、私たちは長期間にわたって漂流をしはじめたといってよいでしょう。
 本紙2015年7月号で、次のような記述をしました。『螺旋階段は着実に上へ上へと登って行くのですが、螺旋階段を上から見れば元に戻っていくように見えるところがあります。世界の動きを見ていますと、いま、螺旋階段の「後退期」に突入しつつあるように思えてなりません。しかも、長い期間にわたり。』今や、完全に後退期に入りました。後退期で克服しなければならない大きな課題は3つ。民主主義と独裁主義という体制間競争、地球温暖化、グローバル資本主義。これらの課題をこなしてからでなければ、次の時代を迎えることはできないでしょう。克服できなければ、対立は激化し、再び戦火を交えることにもなるでしょう。なかでも最大のリスクは中国です。19世紀の欧米列強・日本による植民地時代への報復という戦いになります。コロナが終息するといよいよこの問題が一気に表面化してくることでしょう。
 国際関係に関心をもたずして、自らの利益のためだけに、企業活動をすることはもはやできない時代に入ったと思います。中国との取引の深い企業は、難しい選択を迫られる時期がくるかもしれません。


 

代表取締役 松久 久也