脱デフレへの機会

 現在、新書でベストセラーとなっています「世界インフレの謎」(著者 渡辺努)を読みました。特に身の回りの商品や食料品は段階的に値上がりをはじめており、インフレは皆様の関心の高いテーマではないかと思います。しかし、日本のインフレ率はIMF加盟国192か国中最下位であると同時に、名目賃金もOECD加盟国34か国中最下位という状況です。日本は物価も賃金も上がらない凍結状態にあると著者は指摘します。さらに、注意深い指摘としまして、世界的なインフレの原因がロシアとウクライナの戦争ではなく、パンデミックであると指摘します。そのパンデミックにより、次の3つの行動変容が起きたと説明しています。

  1. ① 消費者の行動変容により、サービス消費からモノ消費にシフトしたことで、モノの生産需要が増加した
  2. ② 労働者の行動変容により、シニア層の早期退職や女性の自発的離職が起きたことで、生産能力が低下した
  3. ③ 企業間のグローバル供給網に隘路(あいろ)が発生し、部品調達に影響を及ぼした

 これら3つの行動変容により、需要に対し供給が追い付かずに急激なインフレが発生しました。また、情報通信技術の進歩により、あり得ない規模の行動変容の「同期」が発生したことで、さらに深刻化したとも指摘しています。

 世界とは事情が大きく異なる日本ですが、物価と賃金をいかにバランスよく上げていくかは、とても難しいテーマであり、政府のリーダーシップに期待するところですが、現状はなかなか進みそうもないようです。では、それぞれの企業が自らのリーダーシップにより改革することはできないのでしょうか? 既にインフレ手当を支給しはじめている企業もあるようですが、手当ではなく賃金を上げることはできないのでしょうか。

 経営者の皆様は、大切な社員のために少しでも賃金を上げたいという思いはあるはずです。一方で、賃上げにより会社の利益が圧迫されることを懸念します。さらに、賃金の下方硬直性が働き、一度賃上げしたら下げられないという心理により賃上げを躊躇してきたものと思います。今こそ、賃上げを実行するために、商品・サービス価格の値上げにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。それも、原材料やエネルギーコストが上がったという価格転嫁だけではありません。現状の商品・サービスに磨きをかけ、もう1段階上の商品・サービスとして付加価値を上げることで価格を上げることに挑戦するということです。

 日本の消費者は世界で一番、価格に敏感であると言われます。それは、何も変わらないものに対し、価格だけが上がることは許容しません。しかし、いいモノにはお金を払うことは許容するはずです。その結果、会社も利益を上げることができ、その利益でさらに賃金を上げるという好循環のスパイラルに舵を切る会社が出始めてもいいのではないかと思います。全体が変わることが理想ですが、それを待っている時間はありません。変わろうと決断した会社が変わればいいのです。我々は、コロナ禍やロシアとウクライナ戦争で当たり前の日常が、ある日突然壊されるということを知りました。

 悩む前に先ずは実行です。何から始めたらいいのか悩まれる経営者がおみえでしたらご連絡ください。一緒に考えていきましょう。

取締役 牧野 春彦