ものごとのバランス

 ウクライナ問題により、外務省は3月7日、ロシア全土の危険情報を4段階で2番目に厳しい「レベル3」(渡航中止勧告)に引き上げました。同時に、トヨタ自動車はロシアの現地出向社員に一時帰国を指示しました。弊社も海外進出コンサルティングの一環で、ロシア・CIS諸国へのサポートをしておりますので、中日新聞からの電話取材を受けました。
 日増しに状況が悪化していく中、世界経済への影響がとても深刻化してきました。コロナ、ロシア・ウクライナ問題、中国・台湾問題と全世界を取り巻く危機に近づいているように感じ、2022年は難しい年になりそうです。

 話題は180度変えてお話ししたいと思います。先日、書店で、「メタバース」に関連した書籍を新刊コーナーで探していましたら、『メタバースとは何か』(岡嶋裕史)という本に出合いました。その横に、田坂広志さんの『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』という本が目に留まり、田坂先生の新刊は久しぶりだと思い、ついで購入をしました。まったくテーマが異なる2冊の本でしたが、読み終わった時に、その2冊の“縁”を感じました。

 『メタバースとは何か』では、「メタバース」の背景と将来的な可能性が詳しく記されており、技術的なこと以上に、「メタバース」が今後世の中にどのような影響を与えていくかという視点で記されています。本書でも紹介されております、2018年に公開されたスピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』も早速鑑賞したことで「メタバース」の世界をより深く理解することができました。

 同時に読み進めた田坂先生の『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』は、流石と思うほど、ひとつひとつの言葉が重く深いです。超要約しますと、この本で伝えたいことは、“心”です。そして、その“心”は3つの“心”を大切にしなさいと教えてくれます。1つ目は、“相手の心”。2つ目は、“集団の心”。3つ目は、“自分の心”。この心の置き方や、磨き方なども丁寧に解説されておりますので、ご興味のある方は是非、お手にとり読んでみてください。

 GAFAをはじめとするテックジャイアントがメタバースの主権争いを繰り広げる中、確実に素晴らしい仮想空間が実現し、我々はアバターを介してその空間で稼いだり、楽しんだり、苦しんだりしていきます。しかし、現実社会の自分の心が未熟であった場合には、正しく楽しく利用することはできないと思います。仮想空間へのアクセス時間が長ければ長いほど矛盾した構造になるのではないでしょうか。従いまして、最新テクロノロジーに触れると同時に、精神性豊かな情報にも触れなければなりません。

 このようなことが、今回、私がこの2冊を同時に手にしたことに“縁”を感じたことでした。不確かな世界になればなるほどバランスが大事になります。冒頭のロシア・ウクライナの問題につきましても、侵攻し殺害を繰り広げているプーチンは圧倒的に悪いのですが、その一方で、なぜ、そのようなことに踏み切らなければならなかったのかという一面を考えるのも大事です。ウクライナ侵攻が始まった翌日にロシアのパートナーの意見を確認しましたが、彼らには彼らの正当な理由がありました。

 私たちは、いつもテレビニュースに扇動されてしまいがちですが、冷静になりちがう一面を見るという習慣が必要ではないかと考えます。
 しかし、平和に暮らしていた日常や命を奪うような行為はあってはならないことです。一日も早くウクライナの人々に平穏な日々が戻ることを願います。

取締役 牧野 春彦