人工知能がもたらす社会

 切迫しています。我が国は、戦後、いま最も大きな国際危機に直面しているのではないでしょうか。核の脅威です。人類初の核の悲劇を体験した日本が、再び核の脅威にされています。
 自分をコントロールする力を失い、民を従えて狂気の世界に突入しようとする時代錯誤の権力者がいます。嘆かわしい現実です。歴史は、いつもこうした人間が悲劇を生み出します。激しい感情が国民の感情に火をつけ、憎しみ、不和、嘆き、不幸を引き寄せます。側近の命を、あっという間に奪い、懇願する兄弟の命も奪う。もはや命を奪うことでしか、心の平安を得られないという人間が、世界の歴史を塗り替えようとします。ミサイル発射を繰り返す基地新浦から岩国基地までの距離は、わずか740キロです。名古屋から鹿児島程の距離です。5分から10分で被弾すると言われます。岩国、沖縄のようにターゲットになるところは、日本中至るところにあります。今年は、戦後、最も危ない年になりそうです。
 さて、カンボジア視察団が来ました。一昨年にASEAN-NAGOYA CLUBを「卒業した」リノさん(弁護士、カンボジアJC会長)が、母国に帰り、企業家一行を率いてきました。内戦が長引いた影響で、経営者の大半は30代です。日本が初めてという経営者がほとんどでした。カンボジアの国づくりに役立てたいという意欲が伝わってきました。
 トヨタ自動車、中日新聞、日本の企業経営者との話し合い、茶道、桜、日本料理という日本文化の体験、1週間の旅程でした。帰国直前に、日本のよいところ、悪いところはどうだった、と感想を聞きました。「悪いところなどありません」というほど強烈な印象だったようです。ある経営者は、「決して、追いつけない」とため息をついていました。日本は長い道のりを経て、現在の繁栄にたどり着きました。「何十年かかっても、けっしてあきらめないこと」と、激励しておきました。
 中でも、日本体験の中で最も驚いたことの一つに、弊社が手掛けているアンドロイドの見学がありました。映画の世界の中でしか見たことがない、空想の世界が、現実になっていることに衝撃が走ったようです。私たちは5年前から、経営者アンドロイドを手がけてきました。人型ロボットに経営者の頭脳を搭載するものです。マツコロイド、夏目漱石などで知られるようになってきましたが、私たちは人間に似せることに興味はなく、経営者の似姿だけではなく、思考そのものを搭載することを手がけてきました。
 新聞、TVなどでも取り上げられることで、AIと人間との関係について、関心が高まるようになってきました。ただ、その関心事は、「AIが人間の仕事を奪うのではないか」というものです。私は長年にわたり、AIとアンドロイドに携わってきた経験から言えば、AIは「人間の仕事を奪うだろう」ということと、同時に「人間の新しいあり方に気づかせてくれる」という2つの側面があります。また、インターネットの普及で見られたように、インターネットを悪用する人間が出てきたように、アンドロイドを悪用する人間が出てくるだろうということも容易に想像できます。AI・アンドロイドに携わる人間には、高度な倫理観が求められます。しかし、必ず悪用する人々が出てくるでしょう。
 「人間の新しいあり方に気づかせてくれる」とはどのようなものでしょうか。私たちは、AI・アンドロイドの出現が、人間の労働観を一変させる可能性があると考えています。人間は、過去、資本、土地、労働という三要素を使い、利潤を生み出してきました。AI・アンドロイドの出現によって、今後、資本、土地、労働、AI・ロボットの4要素が、利潤を生みだしていくのではないかと思います。仕事は、単純な仕事と創造性のある仕事の2つに分かれます。製造、サービスを問わず、単純な仕事がAI・アンドロイドにどんどん置き換えられていくでしょう。たとえ、専門的な仕事といえども、ルールに従ったものは、置き換えられていくでしょう。生活に必要な商品やサービスの大半が、AI・アンドロイドが担っていくのです。ハウステンボスに「変なホテル」というホテルがあります。ここの受付は人間ではなく、アンドロイドです。人間ではなくアンドロイドがフロント受付、精算業務を行っています。すでに2年が経過していますが、アンドロイドでも、業務に支障がないことが分かりました。今後、ロボットが業務を仕切るホテルが増えていくことでしょう。
 ここからある景色が見えてきます。ロボットを所有する経営者は、人間を使わなくても、利潤を得ることができるということです。ちょうど、これは、人間を雇わなくても、資金を運用することで莫大な利益を得ることができるのと同じです。つまりロボットを所有することで、新しい富を生み出すことができます。資本や土地を所有するかしないかで富の格差が生じたように、AI・ロボットを所有するかしないかで、貧富の格差が生じます。しかし、悪い事だけではありません。もう一つの見方が出てきます。それは、人類がはじめて、労働から解放されるかもしれないということです。人間が生きていく上で、単純な製品やサービスは、ロボットが生み出すことで、労働のあり方が劇的に変わるかもしれないのです。必要最低限のモノやサービスは、ロボットが生み出す。それも国が、経済のインフラとして、ロボットを所有することで、必要な財源を確保することができる可能性があるのです。企業が人間を雇い、労働させることで利潤を生みだし、そのなかから税を取り立て、国家の財源とした時代が終わり、国がロボットを使い、商品とサービスを実現し、その利潤を税金とすることで、国家が成り立つのです。最近、登場したベーシックインカムなる概念があります。ベーシックインカムとは、国が全ての人に、必要最低額の生活費を支給する制度です。働かなくても生活費を得ることができるというものです。絵空事に聞こえますが、AI・ロボットの登場で「あり得る」ことだと思います。世の中には、ご飯を食べるために、やむを得ず働いている人は多いものです。一方、十分に豊か人は、生活のためではなく、生きがいを求めて働いている人も多い。生活費のために仕事に人生を捧げるのはつらいものです。しかし、創造力を発揮しながら仕事をすることは、とても楽しいことです。最低限の生活費を、AI・アンドロイドの生産活動に頼ることができるとすれば、人間は創造性や生きがいのために有意義な分野で活躍することができます。人間はやっと、自分の時間を手にするのではないかと思うのです。
 一生を趣味や娯楽だけで過ごす人も出てくるでしょう。一方、生きがいを求めて、創造的な仕事に就く人や経営者が出現するはずです。食べることに困らない社会、かつ創造的で生き生きとした社会が実現できる可能性があるのです。


代表取締役 松久 久也