泣き声に耳を澄ませてみる

 自社やお取引先の工場や製造現場を訪れた際に、床に緑や赤のテープで線がひいてあり、資材や工具の置き場が定められている。そのような場面を見られることが多いのではないでしょうか。しかし、残念ながら多くの場面において、その定められた場所に物が置かれていない、つまり定められた線から物がはみ出していたり、整然と積まれておらず崩れていたりする場面を散見することがあります。当然、定められた線には在庫管理を効率的に行ったり、躓くことを予防したり、通行するリフトが引っ掛けないようにしたりするなどの安全対策の理由があります。一方で、そのような会社を経営しておられる方、とりわけ私どもにご縁をいただく皆さまは一様に経営課題の解決に熱心に取り組んでおられ、会社の課題解決や社員さんの満足度向上、お取引先の拡大など、向上心に余念がありません。もちろんそのような前向きなお取り組みを否定するものではありませんが、実はそんなときほど、現場の些細な出来事、前述のような出来事に課題解決の糸口があるのではないでしょうか。
 京セラの創業者である稲盛和夫氏は謙虚な目でじっと観察してみると、「製品の泣き声」が必ず聞こえてくる、と仰っています(『働き方』より引用)。自らが謙虚の人となるよう三十年間祈り続け、衆知をいかした経営を目指した松下幸之助や、その松下翁を師と仰ぎ全員参加型経営を理念とする稲盛氏のように、物事を広い視野で俯瞰し、自らをふりかえり、可能な一歩を踏み出していく、そんな生き方をしていきたいものです。
 さて、あと半月ほどで新年度が始まり、あらたな仲間が増える会社も多くおありのことかと拝察します。そんなつもりは無くとも慢心してしまい見過ごしてしまう私たちとは違い、まだ現場を知らない新人の方だからこそ見えてくる違和感、現場からの「泣き声」が、もしかしたらあるかもしれません。稲盛氏は、「それはちょうど患者の体温を知るために医師が聴診器で心拍音を聞くのに似ています。優れた医師であれば、心拍音や心拍数の異変からたちどころに患者の身体の異常を完治します。それと同じように、製品の声に耳を傾け、その細部に目を向けることで、不良の原因やミスの要因がおのずと分かってきます」と仰っています(引用・同)。謙虚な思いで自らの会社を見直し、経営を見直し、生き方を見直すなかで、現場から発せられる泣き声に耳を澄ませられる、そんな生き方をしていきたいものであります。


 加藤 滋樹