トランプ大統領とパリ協定

 北朝鮮問題は、収束する気配がありません。金正恩は、自分が「正しい」と思う道を、ひたすら進む。自分の「正義」が、絶対という妄想に取りつかれています。時は、21世紀、グローバリゼーションが進展し、国境の垣根がどんどん低くなっている今日、ひとり北朝鮮だけが、20世紀に生きています。妄想に取りつかれた国を、世界が相手にしなければなりません。まったく、悩ましいものです。アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インド、パキスタン、イスラエルなど核を保有する国はすでに多い。保有国自ら、核を廃棄をせずに、核保有国の仲間入りを果たそうとする北朝鮮を排除しようとするのは、説得力が足りません。いささか都合のよい理屈になっています。すべての核保有国がすでに廃棄すれば、北朝鮮の理屈は通りません。

 2016年1月「4度目の核実験を強行した北朝鮮を意図的に無視している」というオバマの姿勢が賢いのかもしれません。なぜならば、核を保有したからといって、大義がなければ戦争できないからです。トランプ大統領のように北朝鮮と真正面から向き合い、臨戦態勢に入れば、そのこと自体が、北朝鮮に「大義」を与え、一気にリスクが表面化します。すでに8カ国が核を保有しています。核を保有したからと言って、すぐに戦争を始めることはできません。自国だけ生き残ることは不可能だからです。戦争はいつも多大な戦費がかかります。日露戦争では、国家予算の2倍もの戦費がかかりました。太平洋戦争では、建造した戦艦大和やゼロ戦などの戦費調達のために発行した戦時国債で、日本は昭和21年、国家破産をしました。ローマ帝国崩壊も、諸説ありますが、版図維持のための財政破綻だったと言われています。軍事力を維持するためには多大な戦費が必要であり、そのために国家国民は犠牲を強いられます。これが通り相場です。北朝鮮に、国際社会が核を行使する大義を与えさせないのが賢い選択かもしれません。

 このところ近い関係で、新しい命が誕生しました。人口減少が止まらない日本では、まことにめでたいことです。しかし、喜んでばかりはいられません。彼らの多くは、2100年頃まで命を全うしなければならないからです。産業革命以後、地球の気温は1度上昇したといいます。私は社会に出たころ、ある交差点で、排気ガスをまき散らしながら、数多の車が走り去るのを見て、我々の将来はいったいどうなるだろうと、暗澹たる気持ちになったことを、いまでも鮮明に覚えています。あれから、40年、その問題は未だ解決されていません。むしろ、地球環境は大きく悪化しました。こんな環境を次の世代に渡すには、私たちはあまりに問題があります。私は毎日、天気予報と同時にPM2.5予測情報を確認し、出社しています。大気が汚れ、時には注意喚起情報が発信されます。マスクをかけることはしばしばです。晴天に恵まれる日でも、外気が汚れているため、窓を開け放すこともできません。何という時代でしょうか。晴れ晴れとした気分で、爽やかな外気に触れて外で遊ぶ子供の姿が望めないのです。いまでも、公園で楽しそうに遊ぶ、子供連れの親子を見かけますが、大気情報をきっとご存知ないだろうと思います。巨大な地球にいながら、地球の有限さには身につまされます。

 気温が1度上昇しただけで、世界中のいたるところで海面は上昇し、夏が長く、冬が短くなっています。「桜は、その年によって、花の数や色が異なります。そのほとんどは、前年の夏の気候が影響しています。今も桜を守り続ける桜守の佐野藤右衛門さんが言います。夏は桜にとって、成長の季節。葉桜の時期は、桜は根から吸い取った養分を枝先に運んで光合成を促し、それが落ち着つくと、今度はその養分は幹に回ります。本格的に幹が太りはじめるのはお盆過ぎ。この頃、次の春に花を咲かせる花の芽が出来るのです。これをゼロ芽といいます。つまり、桜の花はこの時期に準備が始まるわけです」。(出所:WWFジャパン「日本の桜守の証言」)。この夏の高温化で桜がダメージを受けているというのです。ソメイヨシノは気候変動にとても弱いといわれています。日本人の命ともいうべきソメイヨシノが、次の世代は、見られなくなるかもしれません。影響は計り知れない。

 台風は年々巨大化し、1000年に一度の記録的豪雨という集中豪雨を「毎年」聞くありさまです。1000年単位の気候変動は間違いなく起こっているのです。北朝鮮問題よりはるかに大きな地球規模の温暖化に目を向けなければならないはずです。そんな目の前の現実に、アメリカがパリ協定から離脱するというのです。多くの人が言葉を失います。アメリカ・ファーストではなく、アース・ファーストの時代が来ているにもかかわらず、20世紀の遺産にしがみつこうとしています。トランプ大統領も、20世紀型の妄想に取りつかれている金正恩と同じではないでしょうか。

 気温が1度上昇しただけで、危機的な現象が相次ぐ今日、対策を講じなければ、今世紀末までに平均気温は3.8度上昇すると言われています。想像を絶することです。核戦争を上回る被害をもたらすかもしれません。本当に指導者の責任は重いと言わざるを得ません。ツイッターで発信するトランプ大統領には、もっと誠実に勉強してもらいたいものです。「王の言は糸の如くなるも、其の出ずるや綸の如し」。(礼記・緇衣)



代表取締役 松久 久也