ビジネスマッチングから見えるインドネシア

 先月の15日から19日まで、インドネシアに足を運びました。目的は、インドネシア経済産業省とASEAN-NAGOYA CLUBが主催する、ジャカルタ・ビジネス・マッチングを開催することでした。日本からは中堅中小企業の経営者の皆さんが21社参加されました。

 ビジネスマッチングでは、当日はじめて相手国の企業とお見合いし、パートナーを探します。しかし、言語、商習慣、相手企業の情報不足、価値観の相違など障壁は多く、その日に、初対面の企業がマッチングすることは、難しいのが現状です。ASEAN-NAGOYA CLUBでは、そうした障壁を乗り越えるため、約半年間にわたり、インドネシアに関心をもつ企業の方にセミナーを開くことにしました。経済活動をする前に、相手国の文化、すなわち、ものの考え方、国の成り立ち、思考の特徴などを事前に学習しようという試みでした。インドネシアに精通しておられる名古屋大学の先生方のお力をいただき、毎月1回、勉強会を開きました。こうして、ジャカルタに入りました。

 日本人にとってインドネシアとは、バリ島、イスラム、新幹線などわずかなイメージしかありません。私たち日本人のインドネシア情報は貧困と言ってもよいくらいのレベルです。インドネシアは、まだまだ後進国だと、日本とインドネシアを比較する発想自体浮かびません。ところが、インドネシアはダイナミックに動いています。現在、インドネシアのGDPは年率5.5前後で巡航軌道に乗って成長しています。あのリーマンショックの影響もほとんど受けていません。現在のGDPは約100兆円で、東京都のGDPとほぼ同じです。すでに十分大きいのです。この巡航軌道で行けば、10数年後にGDPは倍になります。2030年ほどで、日本の半分の規模になります。さらに10年ほど経ますと、日本の人口減少とインドネシアの成長が重なり、2040年前後に、GDPにおいて日本はインドネシアに逆転されるのです。

 今後、ますますプレゼンスを高めていくインドネシア。AEC(アセアン経済共同体)における超大国インドネシア。人口は世界第四位、平均年齢27.9歳という若々しい国です。また驚くことに、日本における日本車の普及率は92%であるのに対して、インドネシアにおける日本車の普及率は95%です。アジアの中で最も親日的な国といわれています。この10日に、三菱UFJFGが、インドネシア大手銀行と出資交渉に入ったとの報道がありました。「その国の成長を取り込む、ということが最近のキーワードだ」といいます。日本とインドネシアの二国間関係はますます重要になることでしょう。

 さてジャカルタ・ビジネスマッチングへの日本側参加企業は21社でした。当初、インドネシア側の参加企業は50社程ではないかと想像さていました。ところが、何と217社、450人ほどの参加者があり、インドネシア経済産業省も私たちも驚きました。日本との連携を求めて10倍の企業が殺到したことになります。ニーズの強さだけではなく、インドネシア政府の周到な準備がありました。インドネシアの官僚の皆さんからは、国を発展させたいという清々しい志が伝わってきます。方向性を見失っている日本からすれば、うらやましいかぎりです。

 今回のマッチングでは、ある特徴がありました。それは、インドネシア側参加者の業種においてでした。当初、製造業へのマッチング希望が多数を占めると思われていましたが、閑散としていたことです。会場の熱気は、非製造業の皆さんからでした。第二次産業から第三次産業への移行が加速しているのかもしれません。消費大国に向けて、現地でヒアリングしますと、インドネシアの人々はものに対する強い欲求があります。ちょうど日本の高度成長期の日本人と同じです。耐久消費財は、普及率が10%を超えたあたり(洗濯機普及率は31.2%・2013年、冷蔵庫普及率は31.5%・2013年、自動車7.2%・2012年(出所:2014年Consumer Asia Pacific and Australasia))から普及が加速していくと言われます。また一人当たりのGDPが3000ドルを超えると自動車の普及が爆発的に普及すると言われます。現在のインドネシアの一人当たり名目GDPは、3,570ドル ・2016年です。いよいよテイクオフの時期に差し掛かってきたといえます。今後、耐久消費財から、衣食住・娯楽・金融・健康など全産業にわたり消費が活発化していくものと思われます。世界で最も渋滞が激しい都市ジャカルタというイメージも2年後の地下鉄の開通で、一気に都市が変貌を遂げるようです。政府高官の皆さんが、2年後のジャカルタを見てくださいと胸を張って答えていました。

 笑顔と親日的な対応にすっかり魅了され、ほとんどの経営者がインドネシアのファンとなって帰国しました。海外進出の鉄則は、経営者自らが、現地に入る。担当者に任せきりでは決して上手くいきません。ほぼ東京の街並みと同等の量感に対して、物的な豊かさは日本の40、50年前というギャップが、インドネシアという国のポテンシャリティの大きさを物語ります。

 成長する海外の現場を知ることは、とても重要なことです。その中でもインドネシアからは目が離せません。経営者の皆さんにはぜひ、現地の空気に触れることをお勧めしたいと思います。

代表取締役 松久 久也