「小さな日本」と今の日本

「働く人のエンゲージメント(熱意)調査は、米欧で盛んだ。結果をみると、実は、日本人の仕事に対する熱意は、ほぼすべての調査で最下位クラス。ギャラップ調査では、「仕事に主体的に取り組む人」は、全体の6%にとどまり、世界139カ国のなかで、132位だった。アメリカIBMが、昨年発表した同種の調査でも、43カ国中42位で日本より劣るのはハンガリーだけだった」(出所:日本経済新聞2018年1月28日)この記事を見て、皆さんはどんなことを思われるでしょうか。

日本は素晴らしい国です。しかし、今の日本は、私が考える日本ではないように思います。私が好きなのは日本人を生み出した日本文化であって、いまの日本人ではないように思います。私は海外の人と接する機会が多いのですが、日本について質問を受けると、決まって、明治以前の日本人について語ることが多いものです。特に最近の日本人については、恥ずかしくて語れないのです。私は、矛盾を抱えながら、説明しているのがわかります。
利己的な日本人ばかりになりました。日本文化は常に公を意識していました。役人でなくても公の心がありました。公と私の2つの中で、清々しく生きてきました。いまはどうでしょう。自分と企業と日本の将来をつないで生きている人をほとんど知りません。私の経験では、十万人に一人ぐらいしかいないのではないかとさえ感じています。本当に残念です。

子供の教育について、ある大学の先生と話をしていましたら、開口一番「もう海外に行った方がいいですよ」と切り出されました。また別のある大学の先生からは、大学生に将来どんな人間になりたいかを聞くと、異口同音に「幸せな家庭を築きたい」「高い給料を得たい」の2点だそうです。若者の「欲無し、夢なし、やる気なし」の3なし現象は、年々、ひどくなっているとのことです。夢や志などは死語になっているそうです。この二十年近く、日本を何とか立て直したいという人と議論を重ねてきました。しかし、そうした人も、年々少なくなっています。この10年、私が日本の若者ではなく、海外の若者ばかりを支援していることに対して、「日本を見放したんですか」と辛らつな言葉をいただいたことがあります。しかし、先日、その方は、「あなたの意味が分かってきた」と言われました。

大企業も大学も役人も政治家も、本当に劣化してきたと思います。共通しているのは、誠実さに欠ける点です。みんな自分の利益のことばかりで、全体に思いを致す視野がありません。自分の利益を獲得するためには、見苦しい対立も正しいことだと思い込んでいるようです。調和のとれた社会の発展という考えはないのです。また、上に立つ者の度量が消えうせています。自らの利益のみが基準となっているため、部下や若い人を育てることを放棄しています。例えば大学では、利己的な教授と学生の対立が絶えないと聞いています。人を育てることが使命の大学が、学生を育てることに関心がないことに接するに及んで、この国は、本当に危ない水準まできていると実感します。本当に見苦しい日本人がよくぞここまで増えたという感想です。他を貶めることで自分が生き残ろうとする。そんな風潮が日本のいたるところで見受けられます。

ある人に言われました。「最近の日本人と昔の日本人と比べるとどうですか。昔の人は優れていましたか」と質問したところ、「そうは思わない」と答えが返ってきました。「同じ組織に所属すれば、人間は変わり、一つになる。みんな成長できる」と。経営者次第であると言われました。昔の日本でも、いい加減な経営者はたくさんいたことでしょう。そんな会社の社員も、いい加減な社員であったに違いありません。一方、劣化したと言われる現代にあっても、優れた経営者のもとに集まる社員は素晴らしいに違いありません。ひとえに、経営者如何によるのです。

養老孟子司氏によれば、「日本人はバカになった」と言われる時代。この素晴らしい日本を繋いでいけるのは、経営者のあなたしかいないのかもしれません。大多数のダメになった日本人と、僅かに残った「心ある企業内日本人」に分かれていくのではないでしょうか。この「小さな日本」がとても大切だと思います。

代表取締役 松久 久也