働き方改革と日本人

 いよいよ米朝首脳会談がシンガポールで開催されることが決定しました。金正恩朝鮮労働党委員長はあの若さにもかかわらず、当初、世界が思っていたより、はるかに戦略家であることがわかりました。首脳会談までの経緯が唐突ですので、よい知らせになるのか最悪の結果になるか、まだ誰にもわかりません。朝鮮戦争の終戦になれば、日本人拉致被害者も祖国の土を踏めるに違いありません。結果がどう動くかわかりませんが、いずれにしても、歴史的な日になることは間違いありません。人類の善なる心が問われる瞬間です。何十億人の命運が、二人の人間にかかっています。彼らの責任は、地球の重さと同じくらい重いといえます。
さて、国を挙げて働き方改革について真剣に取り組まなければならなくなりました。人口減少により、人手不足が深刻になってきました。3Kといわれる人気のない業種ではとくに深刻です。今後、人手不足倒産、廃業も増加の一途をたどるに違いありません。働き手に関する相談も増加しています。海外の単純労働の人材を呼び込めないかという相談だけでなく、高度専門家や経営管理人材まで足らなくなってきました。10年以上前から、いろいろな場所で日本の最大のリスクである人口減少について、お話しをしてきましたが、社会的大変動の始まりです。いよいよという感じです。 労働力不足に付随して、労働生産性の問題も表面化してきました。働き方改革には、3本の柱があります。まず、長時間労働の解消です。2番目が非正規と正社員の格差の是正、3番目が、高齢者の就労促進です。これらは、ともに日々、深刻化する労働力不足に背景があります。
とくに長時間労働時間の解消は大きな問題です。それは、単に労働時間を削減すればよいということではなく、日本人の生き方と直結しているからです。
労働人口が減少すれば、働き手が不足する業種で経営が成り立たなくなり、サービスやモノの供給が途絶え、日本人の生活の質が落ちていくことになります。先進国であった基盤が次々と崩れていくのです。人口が減少すれば、国は没落していくことになります。しかし、人口減少の前に、考えなければならないことがあります。それが日本人の働き方です。
日本よりはるかに人口の少ない国で、日本より生活レベルが高い国がたくさんあります。一人当たりGDPで見れば、ルクセンブルグは日本人の2.7倍、スイス2倍、ノルウェー1.9倍、シンガポール1.5倍。日本よりはるかに豊かです。これらの国の人口をすべて合わせても2000万人にも届きません。人口が少ないといっても、生活するのに必要な生活基盤は整っています。人口が少なくなれば、貧しくなるというのは間違いであることになります。しかし、日本のように大きな人口を抱える国と人口の少ない国と比較することは妥当でないという反論があるかもしれません。1億人以上の人口を抱え、かつ上記の国より国土も広い日本で、彼らと同じ生活の質を維持するのは一見、無理かもしれないと思われます。しかし、どうでしょう。アメリカの一人当たりGDPは日本の1.5倍、人口は3.2億人です。大国で国土も広く、生産性も日本よりはるかに高い国です。アメリカはやはり偉大です。
日本人の就業者数は現在、6620万人(2018年3月現在、労働力調査)です。これに対して、アメリカの就業者数は、1億5333万人(2017年IMF統計)です。アメリカの生産性は日本の1.5倍ですから、アメリカ並みの生産性を実現していれば、日本の就業者数は、33%余剰になります。つまり、アメリカ並みの生産性を実現すれば、日本の約2000万人が要らなくなります。日本の生産年齢労働人口のピークは、1995年の8716万人でした、2015年で7592万人です。この間、1124万人減少したことになります。この減少幅よりももっと大きな2000万人が余剰なのです。 日本人は、長時間一生懸命働いてきました。しかし、いつまでたってもアメリカの66%の成果しか上げられない。しかも、今や、日本製品も品質において、もはや“普通”と言われます。なんと悲しいことでしょうか。
ある知人のお子さんがカナダの一流大学を今年、卒業されます。ご両親は日本に帰国してほしいと願うのですが、日本企業の長時間労働と、仕事が終わっても飲み会に連れまわされて自分のスタイルを確保できない日本企業に勤めてほしくないといい、本人も日本企業で仕事をしたくないといいます。彼はコンピュータサイエンスをマスターした優秀な人材です。もし、日本企業が生まれ変わり、人生に意義ある生き方を後押しする風土があれば、彼は喜んで帰国し、日本のGDPに貢献したであろうと想像されます。
日本の働き方改革の本質的な問題は、時代に合わなくなった日本人の文化の問題だといえます。昔から「日本が栄えても決して人間が幸福になれない日本」というタイトルの書籍が多く出されたことを思いだすのです。

代表取締役 松久 久也