中部経済新聞に掲載されました
着眼大局 着手小局 経営に求められる人間力 第20回
「自分からコミュニケーションを取りにいく、そんな若手が少なくなった」
多くの経営者からこのような言葉を聞きます。実際、20代から30代にかけての若手社員と、先輩世代である40代から50代以上の方々とのコミュニケーションに対する意識や考え方に、大きな違いがあることが、私たちの研究により分かっています。
若手の方々が、困ったことや質問したいことがあったとしても「すみませんが・・・」と、先輩社員に質問をしたり話しかけたりすることをしない人たちが多いということです。若手社員が「悪い」「サボっている」とか、「先輩に対して苦手意識を持っている」という理由ではなく、「そういうことをしてはいけない」という育ち方をしていることが大きな原因です。この傾向は、解析をした全ての企業で明らかになっています。
昨今でこそアクティブラーニングという双方向かつ能動的な学習方法が確立されつつありますが、今の若手社員の方々は総じて一方通行の受動的な学習環境であったり、部活動での先輩の言うことを是とするような厳格な上下関係で育ってきたりしており、その影響が潜在的な考え方に入り込んでいます。
自分から先輩に話しかけてはいけない。この傾向を持つ人が私たちの組織にいた場合、どのように対応したらよいのでしょうか。当然、決して彼らを非難したり、責めたりすることは得策ではありません。「そういうことをしてはいけない」という育ち方をしていることが原因であり、潜在意識にも刷り込まれているので、「話しかけなさい」という指示で明日から行動が変化することはありません。
では、若手層の成長を願う人たちはどのように介入していけばよいのでしょうか。経営層やリーダーの方々にお願いしているのは、彼らへの積極的な声がけです。といっても、難しいことをお願いしているわけではなく、「おはよう」や「何かこまったことない?」「大丈夫?」といった、相手のことを気づかった愛のあることばで十分です。
上意下達の指示や命令では、今や人は育ちません。著名な心理学者であるアルフレッド・アドラーは、縦ではなく横の関係でこそ人が育つことを重視しています。「対等の横の関係になって初めて援助し、協力し、勇気づけることは可能」(岸見一郎『アドラー心理学入門』)にあるように、となりに寄り添い、ともに伴走していくようなコミュニケーションが、これからの人づくりにもとめられていくのではないでしょうか。
加藤 滋樹