易経に読み解くビジネス(1) 「世界貿易戦争」

日本全体が、命の危険を伴う記録的な豪雨に襲われました。犠牲者にご冥福をお祈りし、多数にのぼる被害者の方々に、お見舞い申し上げたいと存じます。 以前、人間の叡智「易経」について、触れたことがありました。「易経」によれば、私たちの周りで起こる出来事は、大きく分けて64種類、さらにわけて384種類の類型が存在します。通俗では、易は占いと思われています。しかし、それは間違いです。易経は哲学書です。「よく易を修める者は占わず」という言い方があります。しばらく、易経を通して、ビジネスを考えていきたいと思います。 現在、米国第一主義のもとに、アメリカは世界を相手に大規模な関税を発動して、“貿易戦争”の様相を呈してきました。とくに、中国との報復合戦はすさまじく、世界経済に大きな影響を与えています。 さて、このトランプの“貿易戦争”について、易経を通して読み解きたいと思います。私は64種類のなかの「山水蒙」に相当する現象ではないかと考えています。「山水蒙」とは、「蒙(もう)は享(とお)り。我、童蒙(どうもう)を求むるに匪(あら)ず、童蒙我に求む。初筮(しょぜい)は告ぐ。再三すれば瀆(けが)る。瀆(けが)るれば則ち告げず。貞(ただ)しきに利(よろ)し」。とあります。 どういうことかと言いますと、この局面は、知恵がまだ明らかでなく、蒙昧なる状況だと言います。物が始めて生まれ出たときには、必ず蒙であり、蒙昧であり、まだ幼稚である段階です。知恵の明らかなる大人となるべき素質をそなえているものの、まだ十分に発達せず、蒙昧です。仕事をするときにも蒙昧の域を脱することができず、末の末まで見通しがつかず、先が見通せないまま進んでいる状態といえます。天下国家の前途、小さい万物の行動に至るまで、この曖昧な状態を脱することができないのです。 トランプ大統領の行動を山水蒙にあてはめると、どうなるでしょうか。トランプ大統領は政治家としては素人です。つまり、“童蒙”です。易経では“童蒙”だからダメだということにはなりません。最初は、誰でも“童蒙”です。易経では、トランプ大統領は、政治家としては幼稚であるけれども、純一にして真心をもって教えを受けるとすれば、明らかなる徳を持ち、蒙は必ず十分に伸びていくとの見通しが立つと考えます。 しかし、蒙の状態が、明らかに伸びていくためには、政治家として幼稚であることを自覚し、賢明なる側近に耳を傾けたときだといいます。教えを受けた側近の言葉を疑い、真心をもって聞くことがないならば、道を瀆すと考えます。 報復関税合戦の様子を見ますと、トランプという“童蒙”は知恵が明らかでない自覚がなく、側近に対し猜疑心が強いようにみえます。純粋さから自国民を守ろうとしているのですが、世界経済は、閉鎖的な経済ではなく、かけた関税が巡って自国民に跳ね返ってくることを知らない“童蒙”といえます。 易経から読み解けることは、幼稚な経済運営のままでは、朦朧とした状況から抜け出せなくなります。しかし、易経では、朦朧とした状況から、トランプが持ち前の変わり身の早さから、不都合を感じ、側近のアドバイスに従えば、トランプは事態を打開することになる可能性があると想像しています。易経にみる山水蒙とはそのようなシグナルを表現しているようにみえます。これが、易経から読み解いたトランプの“貿易戦争”です。 経営者の皆さんの前には、毎日のように様々な出来事が報告されてきます。その一つ一つの出来事に、的確な判断力を備えなければなりません。易経は深遠なる経営哲学です。価値のある分野ではないかと思います。 ちょうどトランプの“貿易戦争”のように不慣れなことで判断が蒙昧になることがあります。このような事態になった時は、自らの未開な部分を素直に自覚し、的確な判断力を持った人の意見に従うことで、事態を打開することになる。つまり、迷ったときは、自らの力量を自覚し、純一な心をもって他人の判断に従うことで、正しい道に乗ることができるということを教えてくれます。 知識が乏しいことに直面したとき、自らの不明を隠さず、師となる人の意見に耳を傾け、学ぶことで、正しい道に戻ることを教えています。これが「山水蒙」です。  

         代表取締役 松久 久也