中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第4回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第4回
偶然の幸運に出会う能力
失敗の中にチャンスあり

 抗生物質「ペニシリン」が生まれたきかっけをご存知でしょうか?
 1928年、英国の細菌学者でブドウ球菌の研究をしていたアレクサンダー・フレミング氏は、実験用の細菌培養器の中に青カビを見つけました。普段、青カビは実験には使えないということで捨てられてしまいます。ところが、博士は青カビの周りで細菌が繁殖していないことに気が付きました。そして、病原菌を退治する抗生物質「ペニシリン」を発見することになったのです。
 この発見は、セレンディピティ(serendipity)であると伝えられています。セレンディピティとは、偶然の幸運に出会う能力のことです。
 セレンディピティという言葉は、「セレンディップの三王子」というおとぎ話がきっかけとなって作られました。現在のスリランカであるセレンディップの三人の王子が修行のため身分を隠して旅に出ている最中、らくだを探しているキャラバン隊に出会います。王子たちは、そのらくだを直接見ていないのに、「片目ではないですか」「歯が抜けていませんか」などと特徴を言い当てていきます。
王子たちは、なぜ見てもいないらくだの特徴を言い当てることができたのでしょうか?それは、道の片側の草ばかり食べられていたことから「片目ではないか」と考え、噛み残した草が残っていたので「歯が抜けている」と気づいたからなのでした。
 普通の人が気づかないところにも、何かヒントがあります。ビジネスの世界でも、セレンディピティの事例は数多くあります。68年、強力な接着剤を作ろうとしたところ、すぐはがれて何度でも使える接着剤が偶然できてしまいました。目的である「強力に接着する」ということからすれば失敗ですが、逆にポスト・イットという世界的な商品に結びつくことになりました。まさに偶然の幸運をつかまえたわけです。
 このように、失敗の中にもチャンスがあります。「うちの店は場所が悪いから・・・」「技術力がなくて・・・」「法律が厳しくなって・・・」など、ネガティブな考えをしていては、せっかくのチャンスを逃してしまうかもしれません。
 最後に、そんな偶然の幸運をつかむためには、行動することも大切な要素です。ペニシリンもポスト・イットも、当初の発見のあと、幾多の困難をくぐり抜け10年以上もの歳月を経て世の中に登場しています。「幸運の女神には後ろ髪が無い」といわれるように、チャンスを逃さないためにも諦めることなく常に行動していくことを意識したいものです。

加藤 滋樹

 

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