易経に読み解くビジネス(2) 「北朝鮮」
7月の豪雨に続き、猛暑。「命の危険に関わる暑さ」、「命の危険に関わる大雨」など、全く耳慣れない用語に接する時代となりました。北極圏でも30度を超えたという情報を聞くにつけ、地球にただならぬ変化が起こっているのではと危惧します。科学者は、地球温暖化と猛暑の因果関係はまだよくわからないといいますが、可能性が捨てきれない以上、世界は真剣に取り組まなければならないと誰もが感じています。人間の経済活動が、地球のキャパシティを超えてきたのは明らかではないでしょうか。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書(2014)によると、「1880~2012年の傾向では、世界平均気温は0.85℃上昇。IPCC第5次評価報告書によると、2100年末には最悪の場合(RCP8.5シナリオ)に最大4.8℃の上昇」と予測しています。本当に子どもたちの時代が心配です。
さて、易経に読み解くビジネス(2)として、「北朝鮮」を取りあげたいと思います。北朝鮮に不測の事態が起これば、企業経営にとって大打撃となります。2018年6月12日にシンガポールで、歴史的な米朝首脳会談が開催されてから、“予想通り”事態が進展していません。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」と「経済支援」の手順で全く折り合っていません。北朝鮮問題を指導者である金正恩に当てて考えてみたいと思います。
私は、易経の「離為火」三爻に当たるのではないかと考えています。離為火には、「離(り)は貞(ただ)しきに利あり。亨(とお)る。牝牛(ひんぎゅう)を畜(やしな)う。吉なり」とあります。離は「はなれる」でなく「つく」という意味です。例えば日月は天にくっついています。穀物・草木は土にくっついています。そのように万物はくっつくところがなければなりません。天地の中で、くっつく対象がなく、独立で存在するものはありません。人間にあっては、自分が何にくっつくかをつまびらかに見定めなければならないと説きます。つく相手が正しさを得ることができれば、願いは通ります。「牝牛を畜う」とは、牝牛のように従順の徳を養うことによって完成します。つまり、金正恩が正しい道にくっつけば、偉大な業績をあげることができます。
以上が、米朝会談の大きな解釈です。米朝会談では、世界を驚かすに十分な演出でした。現在の金正恩の心境はどうでしょうか。外観としては、灼熱の太陽を浴びたような状態です。その熱さに照らして内面の充実が求められます。金正恩にとって、この灼熱のような“成果”を実現するために、内面の葛藤はすさまじいものがあると思います。金正恩の立場をさらに詳細にみます。「日昃(にっそく)の離なり。缶(ほとぎ)を鼓(う)ちて歌わずば、大耋(だいてつ)の嗟(なげ)きあらん」と推察します。日昃とは西に傾く太陽です。人間で言えば晩年です。太陽が西に傾き、人の命が次第次第に、死に近づきます。ここでいたずらに死を恐れ、嘆くのは理にかなわない。太陽が西に傾けば、人間、缶を叩いて歌うがよい。いたずらに老いることを嘆き、そうしなければ、混乱する、とあります。
これが易経に見る、金正恩の姿ではないでしょうか。日昃とは、遠い昔の旧体制です。第二次世界大戦、朝鮮戦争という過酷な過程を経て、マルクス・レーニン主義を根拠とし主体思想を実現するために強力な軍事的姿勢を貫いてきました。この思想と軍事最優先政策が、もはや日昃となったのです。すでに“実質的”に世界から共産主義国家は消え失せ、軍事費は国民の生活を疲弊させることを知りました。人間が市場経済をコントロールすることは不可能であり、軍事費が国家財政を破綻させることは、学習済みです。ひとり北朝鮮だけが、その“残骸”を引きずっています。金正恩がこの人類の歴史を受け入れ、北朝鮮という国を生まれ変わらせることができるかは、この日昃を受け入れるか否かにかかっています。“金正恩が正しい道にくっつくことを知らず、いたずらに日昃を嘆く”ことになれば、東アジアは戦火に塗れ、北朝鮮という国家が消えていくことを易経は教えています。
代表取締役 松久 久也