中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第9回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第9回
選択のパラドックス
選択肢が多いほど幸福度下がる

 現代の世の中には情報があふれています。私たちはその情報の洪水の中から自分にとって有効な情報を選択し、判断していかなければなりません。選択をするということ自体にストレスを感じてしまう、そのような経験はないでしょうか。そこで、今回は「選択のパラドックス」について考えてみたいと思います。
 パラドックスとは、一見すると正しそうに思える前提と推論から、実際は受け入れがたい結論が出てきてしまうこと。選択するという行為は、一見すると自由の象徴であり、素晴らしいとことのように思えますが、実は、そのこと自身が「意思決定疲れ」を招いているのです。
 「選択のパラドックス」は、米国の心理学者、バリー・シュワルツが述べたものです。それまで信じられていた「選択肢は多ければ多いほど良い」という定説に異議を唱えたもので、選択肢の多さが、逆に私たちの幸福度を下げているというものです。人間は、選択肢が増えれば増えるほど選べなくなり、思い悩む時間が増える。さらに選んだあと、選ばなかった方の選択肢を後悔する時間まで増える。結果、人間は選択肢が増えれば増えるほど不幸になるということがわかっています。
一例として、このような調査もあります。米国の社会心理学者、シーナ・アイエンガーはスーパーマーケットで24種類のジャムをテーブルに並べたときと、6種類のジャムを並べたときの売れ行きを調査しました。24種類のジャムのときは、60%の人が試食をし、6種類のジャムのときは、40%の人しか試食をしませんでした。しかし、肝心の購入した人は、24種類のときは3%しかいませんでしたが、6種類のときはおよそ30%の人が購入したのです。
 この実験結果からも、多くの選択肢が必ずしも良い結果を招くとはいえないことがわかります。私たちが一度に頭の中にとどめておくことができる数は7±2であることがわかっています。つまり、5~9個の選択肢であれば頭の中で比較ができるわけです。この考えを応用すると、お客様に商品選択を促す場合には、この数値の範囲内とすることでお客様の選択のストレスが解消されることもわかります。
 私たちは、お客さまのためを思って、しばしば多くのプラン、つまり選択肢をご案内し、判断を相手に委ねてしまいがちです。が、現実として相手に満足感を得ていただくためには、お客さまの立場に立って適切に絞り込んでいくことが重要だと言えます。

加藤 滋樹

 

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