中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第10回
「自分に似ている人に好感を覚える」―。このような経験はないでしょうか。
もちろん、自分に顔が似ている人を好きになるという意味ではありません。似ている人とは、自分に境遇が似ている人、考え方や性格が似ている人のことです。たとえば、出身地が同じであったり、住んでいる場所が近くであったり、出身校が同じであったり、共通の知人がいたりすると親近感を覚えます。同じ趣味を持っていれば、当然のように話が合いますし親しみを感じることができます。
セールスマンがお客様との共通点を探したり、「今日も暑いですね」という共感できる話題を切り出したりして、類似点や類似できる考え方を探していくことで距離感を縮めていく手法は、極めて一般的です。お客様との距離が縮まり親近感が出てきたところで、商品の販売を持ちかけられると成約率は上がります。また、仲の良い友人を思い起こしてみると、自分と似たような価値観の人に惹かれ合う傾向があることも分かります。
以上のように、人は自分に似ている人に対して、親近感がわき好意を寄せる傾向があることを、「類似性の法則」と心理学では呼んでいます。
しかし、類似性の法則はあまりに有名であるがゆえに、悪用して「相手をうまく丸め込む」ことに使う人もいます。そのような技術の使い手に対峙するには、相手に対する好意ではなく、取引の事実について、メリットとデメリットを分けて考え、判断材料には取引の中身だけを考えることが有効です。
類似性の法則を改めて考えてみると、人間は自分のことを肯定してくれる、自尊心を満たしてくれる人を自然と好んでしまうということが分かります。私たちの本心は、実は自分勝手でエゴイスティックな存在であることに気づかせてくれます。無意識に類似性の法則にばかり従っていると、まわりがいわゆるイエスマン、自分を賞賛してくれる人たちばかりになり、新しい出会を得る機会を逃したり、情報を得るアンテナを伸ばすことを怠ってしまいがちになったりしてしまいます。
私たちは、類似性の法則に甘えることなく、自分のいわばストライクゾーンを広くし、あえて違う考え方や多様性を受け入れ、多様な価値観を受容できる度量を持ちつづけていくことが必要なのかもしれません。
類似性と多様性の相反する二つをともに大切にしていく。このような意識づけが私たちの仲間を増やし、成長を促し、視野を広げ思考を深めていくことにつながるのではないでしょうか。
加藤 滋樹