易経に読み解くビジネス(3) 働き方改革と学生

 経団連の中西宏明会長は3日 「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」。中西氏は会見で、経団連が主体となってルールを定める現状に疑問を呈した。(出所:日本経済新聞)。  その上で、麻生財務相は企業の採用時期を定めていることについても「昔はなかった。なんで一斉にやっているのか不思議に思っていた」「一斉にやっているというのは、日本以外に、ほかの国でどこかあるのかね?」と応じた。私もそのような国を知りません。例えば、この10月にジャカルタでJOB FAIRを開催しますが、当地の学生は、大学を卒業してから就職先を探します。入社式などという文化もありません。  一斉に就活をして、一斉に入社する。しかし、学業を犠牲にして一斉に就活をして、一斉に入社したとしても、入社後の3年以内離職率30%~36%が、20年近く続いています。国を挙げて、膨大に無駄な時間を費やしているのではないでしょうか。  さて、その就活についてある感想があります。企業経営者の方々と昨今の面接事情についてお話をする機会が多くあります。経営者の皆さんは口をそろえてあることを述べられます。面接時に、学生は判を押したように、ある質問をすると言います。「5時に帰ることができますか?休日に出勤することはありませんか?」この2つです。学生側からは、面接で聞くことはできないもう一つの要素として、給料があるといいます。いまの学生は、早く帰ることが出来て、給料の高い会社に入りたい。これが目標とする条件なのです。こうした条件に合わない企業は“ブラック”だと決めつけるのです。しかも高い給料は自分の能力と関係があると思わないのです。  私たちが学生だった時代に、「5時に帰ることができますか」という、そんな「愚かな」質問をすれば、直ちに面接が終わったと思います。ずいぶん、時代が変わったものだと思います。  ここで、非常に気になる点があります。「5時に帰ることができますか。休日に出勤することはありませんか。」という質問が、実は働き方改革の動きから出てきた質問である可能性が高いからです。働き方改革は、長時間労働の弊害をなくすことが目的ですが、それだけではありません。働き方改革の根本の問題は、生産性です。日本は世界第三位のGDPですが、時間当たりの労働生産性はOECD諸国の35か国中20位です。(出所:「労働生産性の国際比較 2017年版」公益財団法人 日本生産性本部)。働かないイメージのスペイン(17位)よりも下、スロベニア(21位)と変わりません。労働生産性の低さは伝統的と言っていいほど、日本の弱点です。代表的な例が、「上司が帰らないから、部下も帰らない」という事実です。これだけで生産性を低下させます。しかし、日本人には生産性低下の自覚がありません。つまり、日本人の労働に関する文化を変えていかなければならないのです。本当に複雑な時代になった今日、国、企業を挙げて、私たちの生き方も含めて、働き方改革をしなければ、今後の激しく動く時代を乗り切ることができないのではないでしょうか。  面接時における学生の姿を見ていると、働き方改革とは、労働生産性を向上させていくことがテーマであるということに気づいていないようです。働き方改革を通じて、労働生産性を改善し、その結果として、「5時に帰る」ことを実現することができます。ルールを決めたら、「5時帰宅」が実現するわけではありません。ところが、学生は、働き方改革とは、「5時に帰り、休日はしっかりとる」こと自体が目標だと勘違いしているのです。  さて、この現象を易経を通して考えてみましょう。私は、全384種類の中の「雷地予の2爻」に相当すると判断しています。「雷地予」にはこうあります。「予。利建侯行師。(よは、こうをたて、しをやるによろし)」 卦辞(大きな意味)は、嬉しく楽しい準備の時です。爻辞(詳細な意味)は、「介于石。不終日。貞吉(いしにかいす。ひををへず。ていきつ。)」です。石にかじりついてでも、一日中頑張る。石のように固く自分の道を守っている。悦び楽しむことにおいても、けじめを付けることができれば吉。石に介するとは、石のように志操堅固にして身も守る必要があります。楽しく準備するときであるけれども、楽しみに溺れない。怠惰になったり、慢心して脱線しやすい時でもあると説きます。油断大敵という意味です。表向きの印象で錯誤する危険性があるというのです。  面接時に、人事担当者や経営者から「もちろん、わが社は5時に帰るように努力し、休日もしっかりとるようにしています」と聞き、“この会社は、ワークライフバランスの取れたいい会社”と印象を抱き、悦んでいるという現象です。こうして入った学生は、入社後も、ワークライフバランスを第一に人生を送ることになります。5時に帰ることを実現するのは、上司、経営者の責任であるというマインドを持ち、当人は家庭第一に過ごすことになります。本人が管理職になっても、5時に帰るマインドは抜け切ることなく、経営は他人事となります。つまり、ワークライフバランスのマインドをずっと持ち続けることになります。入社した社員の中で、ワークライフバランスのマインドで果たして、わが社は生き残ることができるだろうかという素朴な疑問を抱いた、わずかの社員が管理者、経営者になっていくことになります。この働き方改革の間違った解釈で、経営者と若い社員の意識を分断し、日本の競争力がますます低下していくのではないかと危惧するのです。  「ハーバード・ビジネススクール教授のジョン・コッターが、さまざまな業種のトップ経営陣について調べたところ、週六〇時間以上の労働時間が珍しくないことがわかった。そして、スタンフォード大学ビジネススクールの教授のジェフリー・フェファーが、企業で成功する秘訣の一番に挙げたものは何だったかというと、「活力とスタミナ」だった。是が非でもそれが必要だからだ。あなたは、膨大な時間を費やすことなく、生産性を高めることができるだろうか?もちろん、ある程度までは可能だろう。しかし、才能と効率が同等なら、より多くの時間を費やす者が勝つ・しかも、優秀で傑出した人びとのあいだでさえ、時間数の問題は顕著な要素である」(出所:Braking Up the Wrong Tree)。たとえワークライフバランスが行き届いた国であっても、企業を背負う人間は、多忙な人生を送っているのです。  つまり、企業を背負って立つ人間は、一日のうち、5時を境に、人格を変えて生きていくなどという芸当はできないのです。誠実に人生を生き抜こうとすれば、仕事でも家庭でもその思考は同じなのです。

 代表取締役 松久 久也