中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第13回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第13回
「ウィルパワー」
集中力の源泉は前頭葉に

 「残業しなければ、その日のうちにやるべき仕事を終えることができない」「やらなければならない仕事を先延ばししてしまう」―。多忙な現代社会において、このような悩みをお持ちの方は多いと思います。
 これらを解決する鍵として、米国の社会心理学者ロイ・バウマイスターは「ウィルパワー(Will Power、意志力)」と呼ぶ力を重要視しています。ウィルパワーは、科学的に証明された力で、二つの大きな特徴があります。
 一つ目として、ウィルパワーの総量には限りがあり、筋肉と同じように消耗をしてしまうことです。集中力を使えば使うほど、私たちはウィルパワーを消耗していきます。選択する場面に直面したり、我慢をしたり、プレッシャーを感じたりすると、全く別の行動にも影響が及ぼされてしまいます。そして二つ目には、ウィルパワーの出どころ、つまり集中力の源泉となる場所一つしかない、ということです。その場所は額から2〜3センチ奥、「思考や感情をコントロールする力」をつかさどる前頭葉といわれる部分です。
 集中力というものは、仕事のために一つ、ダイエットのために一つ、運動のために一つ、満員電車を我慢して通勤するために一つ、家族にやさしくするために一つ・・・と、それぞれ別の出どころ、いわば別々の貯蔵庫があると思われているかもしれませんが、それは間違いです。たとえば「クッキーを食べたい」という誘惑に逆らうことと「図形パズルを解く」という、まったく関係のない二つの行動には同じ場所から生まれたエネルギーが使われています。
 幸いにも、このウィルパワーには回復させる手段があります。それは良質な睡眠です。また、筋肉と同じようにトレーニングにより発達することができます。その代表的な手段は「書き留める」という行為です。書き留めることは目標達成のために役立つだけでなく、リラックスすべきときに雑念によりくよくよと考え続けることも止めてくれる効果があります。図らずも、拙稿のように期日が決まった内容を書き続けている自体にも、幸いながらウィルパワーを鍛える効果をいただいているのかもしれません。
 以上のように、私たちは何か一つの目標を実現しようとすると、その他すべてのために使うエネルギーの貯蔵量を減らしてしまいます。昔から「選択と集中」という言葉があるように、多忙な時代を生きる私たちにこそ、文字通り目標を絞って集中することが求められているのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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