中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第15回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第15回
「ウィルパワー」の総量を増やす
厳しい業務は小さく分ける

 集中力の源泉であるウィルパワー (意志力)。前回のキーワードは「節約」でした。低下させる要因をいかに取り除き、本当に重要なことにいかに投資していくかについて考えを述べました。
 では逆に、ウィルパワーの総量を増やしていくにはどうしたらよいのでしょうか?―。今回は少しの工夫や意識改革で効果が上がるものを三つ、取り上げていきます。
 はじめは、何よりも体調管理です。体が気持ちよく感じる程度の運動はウィルパワーの向上に有効です。適切な睡眠によって脳はよく機能します。パワーナップと呼ばれる短時間睡眠、いわゆる昼寝も有効です。また、欧米ではグーグル社のようにマインドフルネスとよばれる瞑想を行う企業が増えてきています。身近な取り入れ方ですと、通勤電車の中でそっと目を閉じて自分の内面を見つめる、といったことも効果的な手法といえます。
 二つ目は小さな達成です。ウィルパワーの消費を多く求められることではない代わりに日々継続することが重要です。小さな達成を通じて、ウィルパワーの総量が増えていくことがわかっています。たとえば、日々一定の時間に起きることや継続できる軽い運動、日記やブログを書き続けることがそれに当たります。
 最後、三つ目は「小さく分ける」という作業です。これが、本日一番大切にしたい視点です。どんなに厳しい業務でも、実際には細かい作業の積み重ねで成り立っています。私たちの脳は元来、マルチタスクには対応していませんので、複数の業務の同時進行は苦手です。
 新しいこと、未知なことをスタートする場合は激しくウィルパワーを消費します。したがって新しいプロジェクトを始めるときには、スタート前のまだ十分に余力がある段階で、可能な限りタスクを細かく分割しておくことです。一つ一つのタスクに取り組むときに「面倒くさい」「わかりづらい」という感情が起きなければ、小さく分けられているという証拠ともいえます。
 米国の鋼鉄王と称された実業家、アンドリュー・カーネギーは、「小さく砕いて、一つずつ解決すれば、解決できない問題はない」という有名なことばを残してくれています。大きな目標になればなるほど、私たちは最初の一歩を踏み出すことを躊躇しがちです。そんな時にこそ、小さく切り刻んで、一つずつ手をつけていくことです。
 小さく分ける。困難なこと、チャレンジングなことに直面した場合にこそ、この考えは大きな意味を生み出すのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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