中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第19回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第19回
顧客とは対等な関係
相手に媚びず、ともに課題に取り組む

 「お客様に認められるためにはどうしたらよいのでしょうか?」—。
 しばしばこの質問を受けます。この発言からは「認められたい」という願望を感じます。根底には「お金を払ってくださる方が上で自分たちは下」という意識があるのではないでしょうか。
 確かにお客様はありがたい存在で、事実としてお金をお支払いいただく方でもあります。しかし、一方で私たちは、有益な情報やサービス、モノを提供するという役割を果たします。お客様を下に見る、ということは決してあってはなりませんし、私たちが礼儀をつくし誠実に応接することは当然です。その前提の上で「私たちとお客様とは対等な関係である」と考えてはいかがでしょうか。
 こう考えると自ずと行動が変わってきます。例えば、「〜だと思います」と下手に出て断言できず、言っていないでしょうか。対等な関係で、自分が有益な情報を提供する立場ならば、しっかりと事前学習をし、「〜です」と言い切ることができます。また、対等な関係で敬意を表するからこそ、姿勢や身なり、心持ちも変わってきます。お客様はありがたい存在であることは念頭においた上で、「私は素晴らしいものを提供して、適切な対価を頂戴する」と意識し、行動することが、認められる第一歩につながるのではないでしょうか。
 さて、私が「対等な関係」から真っ先に思い浮かぶのは、アドラー心理学です。創始者のアルフレッド・アドラーはオーストリア出身の精神科医、心理学者で、「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と言い切りました。アドラー心理学研究の第一人者である岸見一郎氏は『嫌われる勇気』において、「対人関係について、上下関係の縦ではなく、対等な横の関係へと思考を変えること」を勧めています。
 縦の関係は、自分が他人より秀でているように見せようとしたり、他人を蹴落としたり、他人に嫉妬したりすることに繋がります。横の関係は、周りの人たちと強調して前に進んでいけるようになります。相手が自らの意志で決め、自らの力で課題を解決できるように支援する勇気づけを行うこともできます。
 決して相手に媚(こ)びることではありません。また、相手の価値を評価することでもありません。ともに課題を取り組んでいくことへの素直な想いを共有したり、相手への気持ちを伝えたりすることで、お客様との関係性を対等にしていく。これこそが、お互いの成長や事業の発展に清々しくつながっていくのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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