中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第14回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第14回
「ウィルパワー」の節約
行動を習慣化し集中力高める

 「集中力を使い果たしてしまった」―。このような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
 前回の拙稿で取り上げた集中力の源泉「ウィルパワー(意志力)」 。この力には「総量に限りがある」「出どころは一つである」「成長させることができる」という三つの特徴があることを述べました。
 今回は、「ウィルパワーの総量には限りがある」ことを取り上げつつ、手を抜いた節約ではなく、「戦略的にいかに節約していくか」について考えていきたいと思います。
 米国の前大統領、バラクオバマ氏は常に紺色のスーツを着ていたという印象はないでしょうか。服を選択するという行為も、集中力を使いウィルパワーを減らしてしまう要因です。いつも同じ色のスーツを選択することでウィルパワーを無駄に消費しないように心がけ、大統領という責任の重い職務に大いに集中力を投下していたことがわかっています。
 このように、ウィルパワーを節約する一番の方法は行動を習慣化することです。なぜなら、私たちの脳は意思決定を行うごとに、ウィルパワーを大きく消費することが分かっているからです。
 実は、私たち人間は、本能として複数のことに同時に意識が向いてしまう性質があります。原始時代に食事中に外敵から襲われる可能性があったため、複数の事柄に意識を向け、注意を払うことができるように進化してきた結果です。
 しかし、そのようなリスクが限りなく少なくなってきた現代においては、この性質がウィルパワーを無駄に消費させてしまう元凶となってしまっています。ウィルパワーをなるべく使わず判断や意思決定ができる、オバマ氏のような小さな仕組みをつくり、習慣化するだけでも、大切なタイミングでの集中力を高めることができます。選択と集中によって、限られたウィルパワーを重要事項に投下できるような習慣を身につければ、常に本当に大事なことにのみ全力が尽くせるようになります。
 集中力を高めていくには、総量に限りがあるウィルパワーをいかに効率的に使うかが鍵となります。
 昨今の我が国では、働き方改革の重要性が叫ばれ、残業に対する社会の目が厳しくなってきました。しかしながら、そう簡単に仕事量が減るわけではなく、就業者数の減少とも相まって、多忙さは増すばかりです。リーダーとして組織の舵取りを担う私たちにこそ、選択と集中によりウィルパワーを増やし、英断を繰り返し続けていくことが求められているのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

>>>>>記事はこちらから