中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第22回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第22回
「最適水準覚醒理論」について
適度な刺激を心地よく感じる

 木々が色づく紅葉が美しい季節となりました。紅葉とあわせて神社や仏閣などを見学する方も多いのではないでしょうか。
 紅葉の美しさ、歴史的建造物の厳かさ、絵画や彫刻などの美術作品は多くの人たちを魅了します。たとえば、紅葉の風景、京都の金閣寺とその庭園、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」は多くの人たちにその美しさが愛されています。もちろん私も共感します。しかしながら、一方で、「そうではない」と評価する人もいます。理由はどうあれ、人によって美しいかどうかの判断が分かれることはよくあります。
 では、私たちの心は何をもって美しいと判断するのでしょうか。
 イギリス生まれのカナダの心理学者、ダニエル・エリス・バーラインは、「最適水準覚醒理論」というものを示しています。ここでいう覚醒とは、「目が覚める」という意味ではなく、注意が喚起された意識の状態のことをいいます。最適水準覚醒理論は、生理的な覚醒が低すぎる、または高すぎる状態より、中程度の覚醒が最も快を得やすいというものです。
 話が少し抽象的になりましたので、たとえば、美的作品に当てはめるとこうなります。ごちゃごちゃしすぎて複雑な作品の場合、頭を使いすぎて疲れてしまい、不快に感じます。また、シンプルすぎて刺激が少ない作品の場合、つまらなくてすぐあきてしまい、やはり不快に感じてしまいます。つまり、私たちにとっての刺激が適度な作品場合に、最も美的価値が高いと判断し、心地よく感じるということとなります。
 刺激の適度さについては共通の基準はありません。人の興味・関心や考え方などによって異なります。たとえば、私が子どもの頃には、紅葉を見ても今のように感じ心が動かされることはありませんでした。また、美術品についても造詣が深い人とそうでない人は、同じ作品を見ても美しいと感じる度合いは異なるでしょう。
 仕事や勉強を進めていく場合でも同じことがいえます。はじめのうちは分からいことばかりで、つまらないと感じることがあるかも知れません。しかし、時間を重ね、経験や知識が増えていくと刺激を受ける感受性が変わり、見えてくる世界も変わってきます。そうすれば、最初はわからなかった面白さが理解できるようになります。結局は、先入観を捨てて万物と向き合うこと、出会った人たちに感謝を寄せ興味をもつこと。これらを積み重ねていくことが、私たちの心の豊かさにつながっていくのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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