中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第16回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第16回
長期的メリットを重視
目先の壁は医師の力で克服
 

 「長期の視点で考える」―。
 経済学の分野では、しばしばこの重要性が述べられています。これは机上の学問のみで通用することなのでしょうか。実は、富を創出していくという私たちの実体経済においても、その大切さが証明されています。今回は長期的な視野の大切さを皆さまとともに考えていきたいと思います。
 ハーバード大学の教授であった故エドーワード・バンフィールド博士は、50年近くにわたって米国をはじめ世界各国における人たちの社会的、経済的上昇を研究しました。社会的な階層を下層から上層へと移動した個人や世帯を対象に、「なぜ上昇できたのか」を複数世代にわたって探りました。調査した人たちの中には低賃金の肉体労働、単純労働からスタートし、一代で多くの富を得た人もいました。また、2015年の『フォーブス』誌によければ、世界中で10億ドル以上の資産を持つビリオネア1826人のうち、実に66%の人たちが一代で到達したことが記されています。
 では、なぜ一握りの人にそれができて、他の人にはできないのでしょうか。その答えとして、バンフィールド博士は、社会的な経済階層の上の人たちほど、「時間的視点が長期化」しているという特徴を明らかにしています。
 富裕層や優れたリーダーの時間的視点は何年だったり何十年であったり、中には何世代というケースもありました。私たちが定期的に対話を重ねている経営者にも、300年成長を見据えた意思決定をする創業経営者など、多くの人たちにこの傾向が見受けられています。優れたリーダーの頭の中は、いつも将来のことなのです。どこの社会でもリーダーは日々、何年先、ひいては何十年先まで見据えて判断を下しています。
 以上のことから、ひとつ重要なことが明らかになりました。それは、長期的に考えることそのものが私たちの考えを磨き、意思決定の質を劇的に改善してくれるということです。作家・実業家でもあった故アール・ナイチンゲールが「人間は自分が考えているような人間になる」と述べたように、長期的に考えることそのものが、私たちの今の考え方や行動を変え、ひいては将来的にわたって成長していく可能性を高めてくれるといえます。
 私たちは、選択の連続に直面します。長期的なメリットを重視した判断には、時として短期の困難、目先の大きな壁に直面するかもしれません。私たちはそれを厭わず勇気をもって進んでいく、大きな意志の力を備えていく必要があるのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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