中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第18回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第18回
避けられない「正常性バイアス」
リスクを想像する力が不可欠

 「想像できないことが起こった」と慌てて右往左往した経験はないでしょうか。
 東京理科大学を中心とした、東日本大震災における津波被害が大きかった地域に限定をした調査では、地震直後に避難をはじめた人たちはわずか20%であったことがわかっています。逆に言うならば、まわりの様子見をしていたなどの理由ですぐに逃げなかった人たちは80%にものぼります。
 このような日常の延長線上にない事態に陥った時に、心の動きが鈍感になることを「正常性バイアス」といいます。日常生活では、何かあるたびに思考を混乱させ神経をすり減らしていては、心が疲れてしまいます。これを予防するため、ある程度の異常は正常の範囲内として処理する機能が、脳にはあります。すぐに避難しなかった人たちには、正常性バイアスが働いていたことがわかっています。
 企業における組織行動でも同じことがいえます。私たちは目の前に見えている危機を察知し対応することはできます。しかし、将来起こりうる危機については、ついつい鈍感になり、その場限りの対応や後回しにしてしまう傾向があります。
 2014年4月に消費税が8%に増税された際にも、普段見ている飲食店の対応がさまざまだったことが印象的でした。一般論としては、消費が冷え込むことが当然予想されます。そこで、窓ガラスに「価格据え置き」とその場しのぎの大きなPOPを掲示し、我慢の経営を強いられているお店もあれば、増税前に独自性のあるメニューを開発し客足が鈍ることのないよう工夫をしているお店もありました。1年後に控えている再度の増税についても、「1年後だからまだ大丈夫」と考えることもできますし、「何かを変えるイノベーションのチャンス」ととらえて、今から行動することもできます。
 私たちは日ごろの経験から常に先入観をもち、ある程度の異常を許容した上で目の前のことに臨んでいます。パニックに直面すること防ぐため、脳の機能として仕方がないことです。しかし、そのデメリットをきちんと把握しておくことが、持続可能な組織を作る上での大前提となります。
 結論としては、私たちにはリスクを想像する力が不可欠ということに尽きます。想像する力は、物事に対し常に質問を考えることで鍛えられます。なぜやってはいけないのか、なぜやらなければならないのか、将来のために何ができるのか・・・。これらを意識にあげ、考え続けることこそが、組織を前に進めていく手助けとなるのではないでしょうか。

加藤 滋樹

 

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