易経に読み解くビジネス(7) 米中激突

 永遠に終わることの無い循環、“新しい年”がまた幕開けとなりました。きっと、日本には一億通りの“2019年”があるに違いありません。皆さんは、今年をどのような年にしたいとお考えでしょうか。どんな年であっても、心が深く成長した年になることをお祈りしています。
 自らの人生づくりは、皆さんにお任せするとしまして、世界を眺めてみましょう。今年のキーワードは、国際情勢です。アメリカが自らのプレゼンスを脅かす“大国”と向き合うのは初めてではないでしょうか。かつて日本は、アメリカの脅威になりましたが、あっけなく、アメリカの前に、崩れ去っていきました。太平洋戦争、プラザ合意という2つの挫折を経験しました。
 さて、今回、アメリカに立ちはだかる壁は、日本のような柔な存在ではありません。経済のみならず、自国の価値観で世界を塗り替えようという大きな野心にもとづいた挑戦です。日本もEUもアメリカの覇権に立ち向かった時期がありますが、これは、西洋社会の同じ価値観に基づいたレースでした。しかし、今回は、これまでの対立とは性質が全く異なります。価値観の激突です。産業革命以後、西洋文明がつくりあげてきた世界の秩序に異を唱えるものです。これは文明史的にも極めて大きな意義があります。
 中国です。鄧小平が唱えた「韜光養晦」(とうこうようかい:爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦略)をスローガンに、したたかに進めてきた中国が、いよいよ世界の覇権奪取に向かうのが、今回の米中激突の本質だろうと思います。私はまだ、上海の浦東地区が草むらに被われていたころ、中国の知識人たちと話し合いました。「中国が将来発展すると、必ず、変質していく。覇権を取りに行く」と話したところ、彼らは「その通りだ」と返してきたのを思い出します。
 あれから30年が経ちました。南シナ海、東シナ海、台湾問題、相手国を債務付けにする一帯一路、空母建造、資本主義を道具として使いこなす社会主義、中国製造2025、宇宙開発など、意図が明確に出ています。このままでは、危ない。覇権を取られる。アメリカがいよいよ動き始めた瞬間です。トランプ大統領の独断専行ではありません。また巷言われる、貿易戦争ではありません。対中国戦略には民主・共和両党の足並みが揃っています。ファーウェイ排除を象徴として、対中国包囲網が進んでいるようです。諜報活動を連携するファイブ・アイズ(米国・英国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド5か国)にドイツ、日本が足並みを揃えました。またEU27か国が中国の一帯一路を厳しく非難しています。世界はかつての“枢軸国と連合国”のように二分されつつあります。
 果たして、この覇権争いはどうなるでしょうか。今回は、この米中激突について、易経に尋ねることにします。まず、アメリカです。易経の解釈はどうなるでしょうか。沢雷随5爻と考えます。卦辞では、「随は、大いに亨る。貞しきに利あり。咎なし。」対中国に対するアメリカの見解には、各方面から支持を受ける。国際関係がプラスに作用する、と判断しています。爻辞はどうでしょうか。九五、「嘉に孚(まこと)あり。吉」です。九五とは正しさと中庸を得た位にいて、正しさと中庸を得た道によっています。九五は尊い位にいて正しさを得て、心の中に誠がある。中国に対するアメリカの姿勢には、指示されるべき道理があるというものです。天下(世界)は時の自然な流れに従う。アメリカの考えが“自然な流れ”であると認識されています。世界はトランプに振り回されているようですが、民主主義国家アメリカと、一党独裁国家中国を激突させた場合、世界の大半の国家は、アメリカに従うと易経はみています。トランプアメリカには、様々な問題点があり“正しくない”ことが多いが、中国は、アメリカより、はるかに“より正しくない”と認識しているようなのです。中国の価値観は、自国ファーストよりも、質(たち)が悪いことになります。易経は、中庸で正しさを貫けなければ咎がある、道義に背けばひどいことになるだろうといいます。偉大な哲学、易経を生み出した国とは思えない、正しさから程遠い距離にあるのが、今日の中国です。どうやら、王道をいく易経の哲学をもってすれば、中国の道のりはかなり厳しいようです。
 念のために、中国の視点からも易経をみておきます。火風鼎4爻となります。「鼎足を折る。公の餗(こながき)を覆(くつが)えす。其の形、渥(あく)たり。凶」。徳が薄く、位(権力)だけが尊い。知恵はほんの僅かしかないのに、担当する謀事は至って大きい。力は少ないのに肩に背負う荷物が重ければ、たいていは禍が身に及ぶであろう。ここでも大変悪い判断となっています。天下の事は、どうして一人だけが肩に担うことのできるものであろうか。必ずや天下の賢人、知者を求め、これと力を合わすべきである。用いる対象がしかるべき人物でなければ、国家の事を敗り、天下の憂いを残すであろう。社会主義と資本主義を巧みに使い分ける、一国二制度の乱用がいよいよ極まってきます。反省をもたらさないこの驕慢な一国二制度の綻びがはじまることを示唆しています。

 代表取締役 松久 久也