モチベーション理論の一つ「マズローの欲求5段階説」

 従業員のモチベーションが高まると企業の業績が伸びることは、様々な研究や事例から明らかになっています。例えば、「生産性が上がる」、「離職率が下がる」、「エンゲージメントが高まる」など、従業員のモチベーションアップが企業に対するメリットを生み出します。

 企業にとって従業員のモチベーションが大切であることは、皆さんよくご存知だと思います。では、モチベーションを維持し、高めるためにはどうすればよいでしょうか。
 今回は、「マズローの欲求5段階説」について、ご紹介したいと思います。

 マズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で表したものです。人間は、低階層の欲求が満たされると、より高階層の欲求を満たそうとし、自己実現を目指します。

生理的欲求 人間の動機づけの中で最も主要な欲求です。生きていくために必要な基本的、本能的な欲求であるため、通常であれば、企業内ではほぼ考慮する必要はありません。
安全欲求 安心、安全な生活への欲求です。経済的な安定、健康状態の維持など、通常であれば、企業内では考慮する必要はありませんが、あまりにも不適正な労働条件や労働環境の場合は、対応を検討する必要があります。
社会的欲求 集団への帰属や愛情を求める欲求です。自分が必要とされている、自分の果たせる役割があるとういう状態を望むため、企業内では、会社への帰属意識や仲間との信頼関係を満足させることが必要になります。
尊厳欲求 自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求です。承認欲求とも言われ、この欲求を満たせない場合、劣等感や無力感などを感じやすくなるため、企業内での対応が非常に重要な欲求です。
自己実現欲求 自分の持つ能力や可能性を最大限に発揮したいという欲求です。「あるべき自分」になりたいと願う欲求であるため、この欲求を満たしている人物は非常に少なく、企業内での対応は非常に困難とされています。

 従業員一人ひとりが、自身の欲求を満たそうとするとき、最大限のモチベーションを発揮します。企業としては、従業員のモチベーションを維持、向上させるために、従業員がどの階層に属しているかを認識しなければなりません。そして、その階層に応じた施策を実施することが重要です。

 実際に、モチベーション向上の取り組みが成功した企業の事例をご紹介します。

従業員の声を経営に取り込む:東京海上日動システムズ株式会社

 社会的欲求を満たすことが可能な取り組みです。
 全社員が参加して会社の将来や社員の目標を話し合う「全社論議」をおこないます。これまで話し合われたテーマは、「会社や組織、自分の強みは何か」「経営理念を実現するためには、どの強みを活かせばよいか」「5年後、会社はどのような姿であるべきか」など。
 議論は少人数のグループごとに別れておこなわれ、テーマが変わるごとにグループのメンバーが次々と入れ替わります。あえて経営企画部の仕事を全員参加でおこなうことで、従業員一人ひとりの声を経営に生かし、従業員のモチベーションを維持しようとしています。

褒章制度を充実させる:株式会社ファミリーマート

 尊厳欲求を満たすことが可能な取り組みです。
 ストアスタッフの採用強化や育成・定着化に向けた取り組みの一環として、ストアスタッフを表彰する制度「スタッフアワード」を実施しています。「エクセレントスタッフ賞」など、優秀なスタッフを表彰することで、ストアスタッフの接客レベル向上などのスキルアップを目指しています。適正な評価は仕事の動機づけとして重要な役割です。


 マズローの欲求5段階説で最も重要なことは、人の欲求が皆同じではないことを表していることです。わたしたちは、企業や従業員の現状を正確に把握し、満たすべき欲求を見極めながら、企業の成長に欠かせない従業員のモチベーション維持、向上のサポートをおこなっています。

落合 真人