易経に読み解くビジネス 閑話休題 中国ビジネス

 消費税上げに進んでいるようですが、果たして、大丈夫でしょうか。推察するに、「2回も延期したのに、再度延長というわけにはいかない」という政治的な判断だろうと思います。政治的判断は、時に客観的事実から目をそらすことになりますので、懸念があります。
 さて、2015年7月に、本機関紙で「世界の動きを見ていますと、いま、螺旋階段の「後退期」に突入しつつあるように思えてなりません。しかも、長い期間にわたり」とお伝えしましたが、世界は後退期に入ったことが鮮明になってきました。後退期というのは景気動向が悪化しているということではなく、人類の歴史が螺旋階段の後退期に突入した(ヘーゲルのいう螺旋的発展。螺旋階段は着実に上に上に登って行くのですが、螺旋階段を上から見れば元に戻っていくように見えるところがあるという現象)という意味です。
 米中覇権闘争の本格化です。アメリカは、中国が共産主義体制で、アメリカと価値観が全く異なるものの、巨大な市場が莫大な利益をもたらすという見通しを立てていました。中国が豊かになり一人当たりのGDPが増えれば、民主国家になるに違いないと考えてきました。いわゆる関与政策です。しかし、これが大変な誤りであったことがわかりました。昨年10月のアメリカのペンス副大統領は、「邪悪な中国共産党」との戦いを宣言しました。以後、対立は激しさを増しています。関税報復合戦のようにみえますが、すでに日米間における太平洋戦争前夜のような緊張関係に入っています。中国問題に精通している知人に話を聞きましたところ、「あなたは東京からシンガポールかマレーシアに住居を移すべきだとアドバイスしてくる知人が相当数いる」そうです。
 中国はいよいよ腹を固めたようです。日本人には理解できないと思いますが、彼らの世界を見る根は相当深いものがあります。中国人は1840年以降、プライドがずたずたに切り裂かれてきたという事実です。世界の中心であった超大国が、一気に劣等国になりさがりました。序列からいえば禽獣である西欧列強、及び夷狄の日本から蹂躙された事実には、耐えられないと今でも心の底に沈んでいます。
 中国共産党には、この積年の恨みを晴らし、世界の頂点に返り咲き、全ての国を見下ろしたいという強い願望があります。1840年のアヘン戦争から1949年の中華人民共和国まで、蹂躙された歴史を一気に塗り替えるというのが、習近平の中華民族の復興です。習近平が闘っているのは亡霊のような100年間であり、現在のアメリカ人、日本人ではありません。昔のひどいことをした日本人、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス人です。私たちが中国はなんという露骨な戦いを挑むのかと感じても、19世紀を知らない私たちには、彼らの心の底がまったく読めないのです。
 私は、その根がどのような展開を見せるのか注意深く観察してきました。現地法人も設立し、たくさんの親しい中国人もできました。しかし、2010年9月7日に鄧小平の遺言「韜光養晦(とうこうようかい)」をついに実行に移す時期として、中国共産党が決断したと判断し、20年続けてきた中国ビジネスと決別しました。以来、中国は私の考えた通りの展開となっています。私の予想があたっているということではなく、中国は論理的に「積年の恨みを晴らす」段階を進めているということです。アメリカは昨年、中国の本質に気付いたのですが、政権が気づくのは遅すぎたのではないかと思うのです。
 もし、中国が天安門事件を起こすことなく、民主化を進めていたならば、逆説的に、世界から尊敬をあつめる偉大な国家になっていたのではないかと思うのです。中国は、この30年であまりに巨大な矛盾を抱える異形の大国になってしまいました。鄧小平は天安門事件で民主化を押さえ込んだ直後、「今後20年は発展するだろう」と言いましたが、30年経ったいま、中国はその矛盾を自ら解かなければならないことになりました。私と習近平はほぼ同時代を生きてきましたが、彼の頭の中は、まだアヘン戦争の亡霊に怯えているのではないでしょうか。
 私たちビジネスマンは、ときにビジネスの視点だけで動いてはならない時があります。中国とビジネスをされておられる方は多いと思いますが、いよいよ事態が切迫してくることに十分注意して、進まれることではないかと思います。


代表取締役 松久 久也