新型コロナに“学ぶ”

 3月11日です。東日本大震災から9年。あまりに強烈な衝撃を、昨日のことのように思い出します。あっという間に、9年が経ちました。あらためて、心より哀悼の意をささげます。また、今もなお苦しんでおられる被災された全ての方々に、心からお見舞いを申し上げます。
 先月に続いて新型コロナについて、触れざるを得ません。経営者の皆さんのお気持ちはいかばかりかとお察し申し上げます。ニューヨーク市場でも暴落がはじまり、経済危機に用いられる恐怖指数は、同時多発テロのときの49を超え、3月9日には54まで上昇しました。いつになれば終息するのかという嘆息が聞こえます。
 さて、私たちは、しばらく、どのような態度で臨めばよいのでしょうか。世界を覆うこのコロナの意味について、考えてみたいと思います。幕末の志士を育てた佐藤一斎は、「最も優れた人は天を師とし、次に優れた人は聖人を師とし、その次に優れた人は書物を師とする」と天の声に耳を傾ける必要を説いています。また、天の声を聞くためには、「易経は天理をもって人事を説いたもの」と述べています。
 今回の新型コロナの現象を、視点「易経」から考えてみたいと思います。以前、易経からビジネスをとりあげたことがありますが、今回、再び触れたいと思います。
 ひも解いて、驚きました。まさに現在をいいあらわしています。易経は、現在の事態を山地剥の2爻といいます。易経では、人事(世の中の出来事)は大きく分けて64種類になります。さらにわけて384種類の類型が存在します。新型コロナは、山地剥に該当するのですが、これは「64種類のなかで一番悪い」(本田濟)。この世で最も悪い出来事なのです。
 卦辞はこうです。「群陰陽(ぐんいんよう)を消剥(しょうはく)す。故に剥と為すなり。二体を以て之を言えば、山、地に付す。山は高く地上に起こる。而るに反って地に付着す。頽剥(たいはく)の象なり」。山は元来高く地上にそびえ立つべきものであるのに、この卦では、反対に、山がべったり大地にくっついている。つまり、山の土が剥ぎ落されて山が低くなった形である。剥とは、もろもろの陰気が伸びて盛んになり、陽気を消滅させる時を意味します。人間でいえば、悪人たちがこぞって、徳のある人を滅ぼそうとする時です。小人の勢いが大層盛んになり、君子を排除し、君子を追い払ってしまい、君子の勢いは非常に衰えている状態です。
 爻辞は、二爻です。「牀(しょう)を剥するに弁を以てす。貞を蔑ろ(ないがしろ)にす。凶」。ベッドの胴体まで剥ぎ取られてしまう。正しさを蔑ろにして、凶である。陰気がだんだん前進して、上に上がってきて、ベッドの胴体まで剥ぎ取られる。いよいよ正しい道がなくなってしまう。結果の凶なることますます甚だしい。
 さらに文献を読み進みますと、現代社会が抱える病巣が見事に述べられています。

  • 「時代はうわべの儀式ばかりになって、実際の誠意はなくなり、あるいは奢侈贅沢の極み、財政窮乏にも陥ること  になり、行き詰まる。文飾の極み、贅沢の極みは、上下ともに困窮するようになる。すなわち剥ぎ取られる」。
  • 「下層の階級は全く困窮の極に達し、中産階級というものも全くなくなってしまい、上流の社会がわずかばかり存在している時代である。そうしてその上流の社会も、もう長く持ちこたえることはできない状態になる」。
  • 「天下皆腐敗し、上流・中流・下流の階級が皆腐敗し、上流のある場所に極めて少数の人が道徳を知っている」。
  • 「今や小人が君子を侵食し、その地位を奪い取ろうとしている。何分にも君子の側に仲間がいない。だから、正し さを剥ぎ足られて、凶となる」。
 どうでしょう。思い当たることばかりではないでしょうか。佐藤一斎によれば、世の中の現象には、すべて意味があるといいます。新型コロナも、病という捉え方だけでは不十分です。易経から見えてくる新型コロナは、正しい道から外れた人間の精神に起因すると示唆しています。まず挙げられるのは、その人間がコロナを招いた国の指導者であることは明らかでしょう。加えて、世界経済の混乱、地球環境に対する責任放棄、数多くの人間の対立を生んだ、米国大統領にあります。易経は米中の二人の指導者が引き起こした現象とみているようです。二人は、人類の行く末を決める立場にあるからです。易経は、この二人を中心に、人類にさまざまな反省を求めているのです。世界の人々は、あまりに利己的になってしまいました。自国ファーストで地球、人類がもつはずがないと知りながら、私たちは長い時間を過ごしてしまったようです。
 このような時代には、どのようにすればよいでしょうか。易経は、事態は手が付けられないため、止まるべきところに止まって、自ら正しい道を守りなさいと説きます。悪人をむやみに無理に排斥しようとするときは、かえってよくない結果を生ずることがあるともいいます。また天の道に従い、時勢に従って止まり、自ら自分の道を守り、進んで事を成さないほうがよいといいます。
 じっとし、心がコロナに振り回されることなく、社内の態勢に取り組むことです。私たちは、世界的な危機を体験し、次の時代を迎えることになるようです。社内の正しいあり方、正しい方針について、再検討してみるときであります。逆に、そのような見直しの機会を与えられたのだという視点が必要です。
 「文明人の運命は、いよいよ、どれだけ力のある道徳を生み出せるかにかかってきています」
(アインシュタイン)。


代表取締役 松久 久也