経営が変わる

 先回は、お休みさせていただき失礼いたしました。新型コロナ後の社会の様相について、執筆が終わりました。幻冬舎が9月発売に向けて準備をしています。またご批評いただけますと幸いです。
 残念ながら東京の感染が収まるどころかまた拡大期に入っているようです。書物でも触れましたが東京都市圏の人口はあまりに異常です。現在3700万人が暮らし、2位のインド・デリー2600万人を大きく上回り、世界でも突出した状態です。実に日本人の3人に1人が東京に吸い付けられるように暮らしています。生物学の専門家からいえば、人間以外の動物は満員電車のような過密状態では生きていけないそうです。3密と言われますが、東京圏そのものが「超密」ですので、終息は難しいかもしれません。
 さて地球環境、グローバル経済、人間の精神などさまざまな面で行き詰まりを目の前にしていたところに起こったパンデミック。これまでの社会のあり方、経済のあり方が根底から変わる可能性が高くなってきました。経営者はどのようなことに目を配ればよいのでしょうか。
 新しい生活様式だけではなく、新しい経済様式に変化していきます。では、新しい経済様式とは何でしょうか。これまでの経済様式は資本主義のメカニズムの中に人間が組み込まれてきました。私たちは利潤追求という無限の運動の中で、人間も機械の一部として動いてきました。そこでは人間の意志はきわめて限定的にしか作用しませんでした。よくないことはわかっていても地球環境の悪化が止められない、GAFA、4社の時価総額が日本やドイツのGDPを上回る異常な事態となっても止められない、複雑な経済活動の中でいまやどの会社も精神を病んだ社員が14%いても止められない。私たちは、わかっていても止められないという生き方をしてきました。まさに機械としての人間が活動してきました。
 どうやらパンデミックでこれが変わる可能性が高くなってきました。世界のものごとは全て因果関係で成り立っているという考え方があります。例えばプラスチック生産企業に勤めているとしましょう。私たちは生きていかなければならない→私たちは働かなければならない→収入を上げなければならない→より多くのプラスチックを生産しなければならない→地球環境を破壊している→私たちは生きていかなければならないから仕方がない。産業革命以後、こうした因果律の中で生きてきました。しかし、ドイツの哲学者カントは、これでは動物と変らないではないかと述べています。そこには人間の意志がないからです。カントは、人間には理性があるといいます。どんな人間にも叡智界(宇宙の摂理)からくる自由意志が備わっており、そのような声が心の中に必ずあるといいます。その声を行動に移せるのが人間であり、行動に移せず因果律の中だけで生きるのが動物です。その声とは「人の幸福につながることか」、「自分の成長につながることか」と考える声です。経済活動が、社員の幸福につながるのか、自分の成長につながるのかという視点が、パンデミックで優先順位を上げてくるのは間違いないようです。因果律の中だけで、ただ売上ナンバーワンを目指す、規模ナンバーワンを目指すというのは、動物と同じであると気づいたことになります。人間のために経営があるのであり、経営のために人間があるのではないという基本をやっと理解したようです。18世紀半ばに起こった産業革命から250年を経過し、やっと経済活動の基本を理解する時代にたどり着いたようです。今年以降、企業と経営者は大きく変わっていくのは間違いないようです。


代表取締役 松久 久也