できることは何か

 真鍋さんがノーベル物理学賞を受賞されました。大気中の二酸化炭素(CO₂)が増えると地表の温度が上がることを1960年代に突き止めました。その後60年を経て、その現象が明らかになってきたことになります。ノーベル委員会の真鍋さんへの授与は、人類に対する警告の意味も込められているのではないでしょうか。

 地球環境の破綻現象の報告は、絶えることがありません。報告を目にするたびに暗澹たる気持ちになります。もう手遅れではないかという人も増えていますが、ここまでの事態になっても、耳を貸さない人たちがいます。その人たちは、自分にはふりかからないことだといいます。いやふりかからないのではなく、目先の利益を失うものかという姿勢です。しかし彼らもずいぶん「まずいこと」になってきたと思っているに違いありません。

 地球環境破綻を認める人と認めない人の闘いが繰り広げられているといってもよいでしょう。ただこれまでの生活のスタイルを変えない人も、結果的に「認めない人」になるのではないでしょうか。しかし、地球環境破綻の可能性を「認める人」も、茫然と立ちすくんでいる人が大半です。認めたところで、なす術がないではないかといいます。また、たとえ何かをしようとはじめても、所詮、一人の力は知れていると諦めてしまいます。そんな無力感を覚える人に向かって、グレタさんはいいます。「1人では何も変わらないと思わず、“できることをこつこつ”を意識することが大切です」と。大きな変化は常に一人の小さな一歩からはじまるという考えは、いま最も必要とされていることかもしれません。これをSDGsの自分ごと化といいます。自分ができることは何かを考え続けることが大事だといいます。

 私は、自転車の移動に取り組んでいます。またコロナ禍もあって、この2年間、一度も排出量の多い航空機、新幹線、公共交通機関を使っていません。また食品ロスによる二酸化炭素の排出が膨大であることを知り、食べ残しをしないように心がけています。もちろん必要なもの以外は買わないようにしています。

 さて、企業家の皆さんにとって、何ができるでしょうか。脱炭素などわが社ではできるわけがないと考える経営者がずいぶんいらっしゃいます。しかし、それが「正しい」とは思っておられないはずです。きっと「大変なことになる」と自覚をされていると思います。この大きな矛盾が、我々を取り返しのつかないところに連れて行くのだろうと思います。いま、第四次産業革命で産業構造が大きく変わろうとしています。一方、そのうねりよりもっと大きな変化が気候変動です。自然は、人間の都合で動いていません。むしろ、人間の行き過ぎた活動に逆襲をしています。私は、コロナ禍は地球環境に対する人類への警告ではないかと思っています。

 企業家は炭素を使って売上を上げて来た活動を変えるべきなのです。炭素を使わずに売上を上げること、利益を上げることにシフトすることです。これを国連は『グレート・リセット』と呼んでいます。SDGsを大目標にして企業は売上と利益を実現する覚悟を決めるべきではないでしょうか。あまりに大きな課題ですが、逆に、そうした観点から生み出される市場は途方もなく大きいものに違いありません。第四次産業革命の先端技術とSDGsを融合するモデルを、人類の切り札にしていくことではないでしょうか。その切り札により人類はこの大きな課題を突破していくのではないかと思うのです。もし大胆な『グレート・リセット』をしても気候温暖化の暴走が止まらないとしたら、そのときは、ほんとうにすべてを諦めるしかないのかもしれません。それほど深刻な選択を迫られている時を迎えたと思います。

 

 「私たちは大量絶滅の初期の段階にいるのだ。それなのに、あなたがた大人が話すことといったらお金と、永遠の経済成長という作り話ばかり。よくもまあそんなことができるものだ!」というグレタさんの叫びが響いてきます。

代表取締役 松久 久也