易経に読み解くビジネス(5) 日本はいつ変わるか
アメリカ中間選挙が終わり、トランプ大統領は「勝利宣言」をしました。自分に不都合な現象は、なかったことにする、あるいは認めません。感情を優先する政治は暫く続きそうです。理性よりも感情。ますます人々の理性は後退していきます。歴史を後退させているトランプ大統領の負の側面は、後世に長く影響を与えるでしょう。
先月の下旬に、インドネシア・ジャカルタ近郊の労働省研修センターで、ジョブフェアを開催しました。主催はASEAN-NAGOYA CLUBですが、インドネシア経済産業省、労働省、インドネシアの大学と連携し、素晴らしい成果を出すことができました。労働人口の減少に悩む日本企業20社あまりが参加し、インドネシア高度人材の採用面接を行いました。採用枠15名ほどに、実に、2300名の応募がありました。1社あたり100名以上の面接でした。150倍の競争率は、日本では考えられないことですが、もっと驚いたことがあります。
それは、2300名の学生を中心とした希望者が、朝早くから6時間以上も行儀よく1列に並んで、順番を待ち続けたことです。驚いたのは私たちだけではありませんでした。一番驚いたのはインドネシア政府関係者でした。この様子は当日のニュースでも取り上げられました。インドネシアの人たちは順番を待って並ぶという発想がない国です。2300人もの若い人たちが、行儀よく並んだということは画期的なことでした。8月に開催したアジア競技大会を成功させ、2032年のオリンピック誘致に動いているインドネシアです。この長い行列を目の当たりして、この国は、先進国の仲間入りを果たすに違いないと確信しました。彼らには、すでに先進国への自覚が芽生えているのです。
これがきっかけで、先日のASEAN-NAGOYA CLUBの定例会で、留学生の高いまなざしと、同世代の日本人の志の低さが話題になりました。今のままでは、日本人の若い人は、ASEANの情熱ある若者についていけなくなるでしょう。
一体、日本はどうなるのでしょうか。易経を通してみると、私は沢火革の初爻に相当すると考えています。卦辞に「革(かく)は、已(や)んぬる日にして、乃(すなわ)ち孚(まこと)あり。元(おお)いに亨(とお)る。貞(ただ)しきに利あり。悔い亡(ほろ)ぶ」とあります。革命は、革命の機運が充ちたとき、はじめて人々に信じられる。革とは、古い状態を変えるということであり、古い状態を変えるとき、下々の者はまだにわかに信ずることができない、と言います。また爻辞は、「鞏(かた)むるに黄牛(こうぎゅう)の革(つくりかわ)を用(もちう)」とあります。変革は、至って大きな事件であり、変革を行うには、必ずそのしかるべき時がある、と説きます。つまり、機が熟すまで動くなといいます。
解釈するとこうなります。中国に抜かれたとはいえ、日本は大国です。その日本には豊かな知見、ノウハウ、財産などが豊富に存在しています。ASEANなどの途上国からすれば、信じられないほど高度な社会システムがあります。しかし、企業は人なりというように、国家のレベルもその国家の人々のレベルで決まります。夢なし、欲なし、やる気なしと言われる日本の若い人々には、この偉大な国を支える力はもはや持ち合わせてはいないように思われます。しかし、易経では、大人たちがそのような危機感を抱き、この国を何とかしたいと思っても、うまくいかないだろうといいます。つまり、大人たちの危機感は、若い人たちには「にわかに信じられない」と受け止められるのです。
では、若者が信じはじめるのはどのような状況になったときでしょう。政府は11月2日、外国人労働者受け入れ拡大のため、新たな在留資格を創設する入国管理法改正案を閣議決定しました。深刻さを増す人手不足を解消するため、従来認めてこなかった単純労働にも門戸を開き、これまでの政策を大きく転換することになります。高度人材だけでなく単純労働にも広げ、いよいよ人材の門戸開放を行うことになります。人材流入の黒船ともいうべきショック療法になることでしょう。志高く、学習意欲、情熱、勤労意欲どれをとっても、今の日本の若者が失った生き方を実践する海外の若い人々が、おびただしい数やってくることでしょう。その時、はじめて、今の若者は、自分たちの怠慢な生き方を自覚することになります。大人たちが、問題にしていたのは、「こういうことだったのか」と知ることになります。易経のいう、「機が熟した」時となるのです。外国人労働者受け入れというのは、単に労働力不足を補うという意味ではなく、日本が再生をする「黒船」になるのではないかと易経は見ているようなのです。私は、この機は、2030年頃にやってくるだろうと予想しています。それ以降、新しい考え方をもった日本人が誕生するのではないかと思います。
代表取締役 松久 久也