オッカムの剃刀

 オッカムの剃刀とは、「問題解決を行うための仮説を提示する時、最も少ない仮定で解を得るべきである」という思考法で、14世紀イギリス・オッカム村出身の神学者・哲学者であったウィリアム(William of Ockham:通称オッカム)が多用したことで有名になりました。オッカムが残した原則としては、ラテン語および英語で以下のように表現されています。

Pluralitas non est ponenda sine neccesitate.
Plurality should not be posited without necessity.
(不要に複数の仮定を立てるべきではない。)

Frustra fit per plura, quod potest fieri per pauciora.
It is pointless to do with more than what can be done with less.
(より少ないことでできる以上のことをやるのは無意味だ。)

 2010年代初頭より、ビッグデータやディープラーニングといった言葉が注目を浴び始め、第3次AIブームが始まりました。第1次、第2次のブームとは異なり、現在のAI技術は実用性や汎用性が高く、様々な分野で活用されています。その技術は、大量のデータ(ビッグデータ)を自動的に学習(ディープラーニング)し、特徴量を抽出することが基本的な動作になります。
 今現在、ビッグデータが手元にあるなら、ビジネス課題のために、そのビッグデータをディープラーニングすることで、解決への糸口が見つかるかもしれません。しかし、質の良いデータが手元になく、また集める時間がかかったり、集めること自体が難しかったりするのが現実です。このような場合にはどうすればよいでしょうか。
 ここで、冒頭に紹介した、オッカムの剃刀の思考法が使用されます。オッカムの剃刀の思考法は、「ある現象を説明する理論・法則が複数ある場合、より単純な方がよい」です。例として、「宝くじを当てて賞金を得た」という現象を説明する文章を紹介します。
  1. 購入した宝くじの番号が一等の番号と一致しており、賞金をもらった。
  2. 幸運の女神のご加護により、購入した宝くじの番号が一等の番号と一致しており、賞金をもらった。
 どちらの文章も、「宝くじを当てて賞金を得た」という現象を説明しています。しかし、2.の「幸運の女神のご加護により」という文言がなくても十分に現象を説明できているため、1.の文章のほうが適切である、というのがオッカムの剃刀の思考法です。
 この思考法をAI技術に持ち込んでいるのが、スパースモデリングと呼ばれる技術です。
  • スパース:すかすか、少ない
  •  
  • モデリング:ある事象の抽象化された姿をつくること
 スパースモデリングとは、「物事やデータの本質的な特徴を決定づける要素はわずかである」という仮定のもと、少ない要因、データで結果を導き出そうとする新しい技術です。
 スパースモデリングが注目される背景には、以下の3つの要因があります。
  1.   1. データが少量でも利用可能
  2.   2. 出力結果を人間が解釈、説明しやすい
  3.   3. 計算コストを抑えられる
 いまだ学術的な分野が主で、ビジネスの現場では事例の少ない技術ですが、今後は、ディープラーニングのデメリットを補うことができる技術として、スパースモデリングのビジネスへの応用も増えていくでしょう。
 私たちは、常に新しい技術を追いかけ、ビジネスユースケースでの活用を考えています。


落合 真人