コロナとストレス
オリンピック開催が窮地に立っています。日本では新型コロナは収まるどころか、感染拡大の一途で開催まで、残すところあと2カ月あまり。常識的な感覚からすれば、オリンピックは中止です。しかし、巨大な利権構造に陥っているIOCは身動きがとれなくなっているようです。英ガーディアン紙は「国際オリンピック委員会(IOC)の収益の4分の3は、4年ごとに開催される夏季五輪と冬季五輪の2つのイベントによるテレビの放映権料から得られている。IOCは数十億ドルがブラックホールに吸い込まれる脅威には耐えられないので、コロナどころではない」と報じました。これを聞き、緊急事態宣言で苦境に立たされた数多の飲食・医療・旅行業界等の人々はどのように思われるでしょうか。
コロナはこれまでの人間の文明に待ったをかけました。危機的な地球環境は産業の規模拡大がもたらしました。これにレッドカードを突きつけたのがコロナともいえます。先日メガバンクトップの支店長と話をする機会がありました。これまでは無理が生じても目標数字を何が何でも達成せよと働いてきたといいます。しかし、いまは、無理があると感じたならば、業績が下がっても行動するなとの全社方針に変ったとのことでした。大手企業にも思考の修正が見られる時代になりました。文明の転換点となりつつあるようです。
現在のオリンピックは、上部に腐敗した巨大な利権構造があり、下部に純粋なアスリートたちがいます。それは誰もが知るところです。政府組織でもないIOCに各国政府が従わなければならないのは、不思議な話です。そもそも誰でもできるスポーツです。にもかかわらず、巨大なマネーを動かすことのできる一部の国しか開催できません。つまり目的はスポーツマンシップに則り、世界の人々が平和的に交流することにあらず、利益にあるのは今や明らかです。規模拡大によるお金の魅力に取り憑かれたオリンピックを根本から見直す時期にはいったことは間違いないようです。
さて、コロナを耐え忍んで1年が過ぎました。人々の気分は塞がるばかりです。毎日毎日、ネガティブなニュースばかりが流れ、オンラインになれていない人は他人と話をする機会さえ失っています。どれほど多くの方が孤独に陥っているかわかりません。脳科学者によれば他人としゃべらないこと自体が、脳の健康によくないと言います。まだまだコロナとの日々が続くことを考えれば、生活スタイルに新たな風を送り込む必要があります。
どのように新しい生活スタイルを築けばよいのでしょうか。パターン化された生活に、新しい生き方を切り拓くことではないでしょうか。新しい発見につながるものとして、作家の五木寛之さんは興味深いことを述べています。活動するには塞がれた今以外の“過去”があると五木寛之さんはいいます。「どうストレスを克服するかについては、的確な答えはない。そういうとき私は、過去の記憶のなかから何ともいえず嬉しかったこと、幸せだった瞬間のことを回想することにしている。回想の力とでもいうべき心の状態をつくりだすことが大事なのである。後ろを振り返ることで前へ進むエネルギーを生み出す」。
私は過去を振り返ることはしないほうがよいと伝えてきました。過去を振り返ることはドゥーイングモードといい、現在に注意が向かない状態をいいます。これに対して今という瞬間に集中することをビーイング・モードといいます。私たちの未来の源泉は今をおいてしかありませんので、この一瞬に集中して生きることがとても大事です。しかし、ぼんやりと過去を振り返るのではなく、過去を現在の出来事として積極的に回想し、置き換えるのであればビーイング・モードとなります。
また最新の脳科学でも、回想が健康にとってとてもよいことがわかってきたそうです。「なぜ、“懐かしさ”を感じると、脳や体が元気になるのでしょうか。それには、神経伝達物質であるドーパミンが深くかかわっています。ドーパミンは私たちに快感をもたらす物質で、脳幹の中脳にあるドーパミン神経から分泌されます」(瀧 靖之著 「回想脳 脳が健康でいられる大切な習慣」)
私たちの目の前には、感慨深いことや楽しいことがあらわれます。しかし、それは一瞬のことであり、十分にその瞬間を味わうことができません。「“懐かしさ”を味わうために今シャッターを押す」ことが大事だと瀧さんはいいます。その瞬間を切りとり、後でその写真をみながら意味づけをしていく。こうすると、その瞬間の出来事が広く深くなっていくことがわかります。私は昨年から一瞬を切りとった写真にエッセーを載せたフォトブックをつくっています。過去を形にするととても面白いことがわかりました。私がやっていたことは、瀧さんによれば回想脳へのチャレンジだったようです。
ノスタルジック回想法は、身動き取れないコロナ禍の現在を未来につなげる素晴らしい方法のようです。ぜひ皆さんも、どんな切口でもよいのですが新しい生活スタイルにチャレンジされることをおすすめしたいと思います。きっと経営スタイルの革新につながる、新しい発見があるはずです。
代表取締役 松久 久也