真実が見えなくなる時代

 日に日に、トランプと金正恩リスクが大きくなっています。とても大統領とは思えない一ビジネスマンと一独裁者が振る舞う世界は、今までと全く異なる異様な時代となっています。理性よりも感情。野蛮な感情の衝突が、世界の歴史を塗り替える日が来るかもしれません。中国の妄想、ロシアの権謀術数、歴史が退行しているのは間違いありません。これほど、浅ましい人間性が、世界を覆った時代は、少なくとも、戦後の長い歴史の中ではじめてではないでしょうか。酷い時代がやってきたものです。

 どうして、こんなことになってしまったのでしょうか。諸説あるでしょうが、それは、人間が野蛮な内面を、あからさまに伝える手段を手にしたことも大きな要因です。思考をしないありのままの感情を、容易に誰かにぶつけることが出来るようになりました。

 AERA2017年9月11日号に「炎上人の感情決壊」と題した記事がありました。「感情を抑えきれず、溢れさせてしまう人が目立つ。謙譲と謙抑が日本人の美徳、という時代はもう遠い昔になってしまったのか。そんな『感情決壊社会』をつくり出している大きな要因は、インターネットだ」というものです。まったく同感です。私たちはインターネットの利便性を謳歌しているようですが、実は、インターネットの闇に吸い込まれています。2016年6月21日掲載のコラムTOPICS「情報社会とストレスチェック」にて、同様の記事を記述しました。解析したところ、人々の心に闇をもたらしたのは、インターネットであることをつきとめたからです。日本では1999年を境に、良心をインターネットに売りわたしてしまいました。しかし、この現象は日本だけに限りません。もちろん、全世界です。

 ものごとを単純化したメッセージを、SNSで全米に広げたトランプが、勝利を手にしました。感情が支配的となったアメリカ人がトランプを選んだともいえます。いまは、このトランプがツイッターで、金正恩を刺激し、感情応酬の悪循環をつくりだしています。

 人間は、悪心と良心の葛藤の中で、成長しながら良心をつくり出していきます。つまり、最初から良心が備わっているわけではありません。試行錯誤の結果、人間の良心が勝利を手にするといったプロセスを経ます。鍛錬が足らなければ、子どものように悪心が勝ってしまいます。良心と悪心の葛藤を放棄させるのが、インターネット、SNSです。誰かが、自分の心に巣くう悪心を表現すれば、「そうだ、そうだ」ということになり、良心の声は、悪心に一気にかき消されていきます。悪心優位の日常が始まり、豊田議員、山尾議員、橋本議員のような政治家が続々と誕生する社会になります。

 良心は悪心の力に押さえつけられる。悪心の伝染力は非常に強いものです。謙譲の精神を失った人間は、粗野です。たとえ、知識人でも、たとえ、美人でも、その浅ましい精神から、知識人でも美人でもなくなります。心の美しい人は、本当に美しいものです。「人はどう行動すれば美しいか、人はどう行動すれば公益のためになるか、この二つが、幕末人をつくりだしている。幕末期に完成した武士という人間像は、日本人がうみだした、多少奇形であるにしても、その結晶のみごとさにおいて、人間の芸術品とまでいえるように思える」。(出所 司馬遼太郎:この国のかたち)

 私たちの国は、世界でも稀に見る美しい心の持ち主が多い国でした。それは、一人一人の人間を大事に、国中の人々が育ててきたからです。これほど悪心の伝染力が強い時代から守るには、どうしたらよいでしょうか。それは企業の力です。悪心から一人一人を救うことができるのは企業です。企業経営者の正しい心を、社員一人一人に伝える。この地道な努力しか、時代から人々を救う手立てはないと思うのです。


代表取締役 松久 久也