iPhoneのアプリと消費者行動

 私が使っているiPhoneに入っている著名なアプリについて、先日、関係企業の方から改めて知識を得る機会がありました。いつもはさらっと見流していたものの、じっくりと見ると驚く発見がありました。それは、私が男性であるにも関わらず、女性用の化粧品や女性用の服の広告が入ってきていたことです−もちろん男性として登録をしています−。しかも多額の広告宣伝費を投下しているような、テレビCMで見受けられる企業からでした。性別という基本的なセグメントを誤ったダイレクト広告は、ブランド価値を高めるどころか、信頼性やロイヤリティを下げてしまい逆効果ではないか、と考えてしまうのは私自身だけではないと思います。
 というわけで、今回はこの体験の中から、「消費者理解は企業活動にとってどのような意味をもつのか」ということを皆さまと考えていきたいと思います。
 消費者の行動を前述のような個人特性から理解することは、企業活動としてのマーケティング実務の基本中の基本といえます。たとえば、マーケット・セグメンテーション(市場の細分化)を行いターゲットとなる消費者を定めるためにも、この理解は欠かせません。消費者の集合体である市場を均質なものではなく、性別や年代、地域、性格、思考方法といった個人特性を把握してグループ分けし、細分化することで、それぞれのニーズに応じた商品開発やブランド戦略、そして無駄のない広告戦略ができるというものです。
 消費者の心と行動を客観的に理解する枠組みとして、ドイツの心理学者、クルトン・レビンは、B=F(P・E)というモデルを提示しました。ここでいうBは行動(Behavior)であり、Fは関数(Function)、Pは主体である人間性(Person)、Eはおかれている環境(Environment)をあらわしています。つまり、このモデルは「人間の行動は、人間性、価値観、性格などの個人特性と、個人がおかれている環境との相互作用のもとで生まれる」ことを意味しています。冒頭の広告では、これから冬が近いということで乾燥肌を防ぐ化粧品やダウンコートなど、まさにE(環境)を満たす提案をしていました。しかしながら、性別というP(人間性)の基本的な事項を誤っていることで、購買というB(行動)にまったく繋がらないことが明らかです。この例は世間話、笑い話で過ぎてしまうことでもありますが、翻ってみてみると、私自身を含めて意外とPとEの双方を満たすような消費者へのご提案はできていないのが現状ではないでしょうか。常識的に考えてみると当然のことであっても、レビン博士のモデルが大きな気づきを与えてくれていることに改めて気づきます。
 また、レビン博士はこの関数研究の成果として大きな示唆を与えてくれています。行動は過去や未来に依存するのではなく、人間性や環境という「いま」を構成する場に依存しているというものです。過去でもなく、未来でもなく、いま。師走が近づき、忙しい季節となってまいりますが、いま、を大切にして、日々を歩んでいきたいものです。

加藤 滋樹