渋滞と経営

 10月に入り、嬉しいニュースが飛び込んできました。ノーベル医学生理学賞に本庶佑京都大特別教授が選ばれました。このような素晴らしいニュースには日本国民として賞賛と同時に、その功績の内容を理解しはじめることになります。一方で、毎回のように、ノーベル賞受賞の後には、過去の基礎研究を称賛する一方、昨今のように基礎研究に注力できなくなった現状において、今後、このような名誉ある賞を受賞することは出来ないだろうと解説されます。このような事例は大学の研究のみならず、東京大学の西成活裕教授が指摘するように、企業経営においても同じことが言えるのではいかと思います。

 西成教授は「渋滞学」に取り組んでおられます。“交通渋滞”により、実に、国家予算の14%の経済損失があると指摘しております。“交通渋滞”で最も影響のあるケースは、運転手でも気づかないくらいの緩やかな坂道により、少しずつスピードが落ちていき、後続車が「早く行きたい」と、車間距離を詰めていくのですが、追突を避けるためにブレーキを踏みます。そのブレーキのバトンが後続車へドンドンと伝わって行くことにより、数十台後には停止せざるを得なくなります。これが、日本の渋滞原因の第1位であり、全体の60%を占めるそうです。このような渋滞減少は、“交通渋滞”のみならず、企業内にも日々発生しております。例えば、大量仕入れによる倉庫の渋滞。大量注文による調達や物流部門による渋滞。受注情報に関係ない生産による在庫の渋滞。育成計画のない人材の渋滞。など、企業のあちらこちらで渋滞が発生します。ここで重要なことは効果的なスループットの発想です。社内で滞留することのない最適なスループットを実現することができれば、利益率は確実に改善していきます。また、人材も確実に成長していきます。そのために重要なことは、“部分最適”な経営から、“全体最適”な経営へシフトすることです。“全体最適”を実現するためには、短期視点な経営ではなく、長期視点の経営を目指さなければなりません。経営者は長期視点に立って展望を俯瞰し、次の一手を講ずる必要があります。私も経営コンサルタントという立場で、様々なテクニカルな要素やスキルを学んできました。しかし、この激変な時代において、求められるのはスキルだけではなく、物事の本質をつかみ取るための基本となる“教養”がとても重要であると考えます。なぜならば、教養は原理原則を教えてくれるからです。例えば、教養は以下の事を教えてくれます。

 アフリカのとある原住民は、原始的な焼き畑農業で生計を立てていますが、部族が1年で食べられる分以上の生産はしないそうです。作り過ぎないことで、子孫のために豊かな土地を残していきます。“自分達さえよければいい”という利己的な発想ではなく、子孫たちの将来の豊かさのために今を我慢したり、工夫したりするということです。
 我々は、近視的ではなく、長期視点に立って考える、ということが重要です。そのためには、個々(自社内)だけで考えるのではなく、多くの経営者の方々と対話をしながら、業界や地域を超えた全体最適化を実現していければと思います。

 弊社は、そのような機会を提供させていただくために、様々な方々とコラボレーションセミナーの開催を実施しております。セミナー後半では、ワークショップにより参加企業がお互いにコミュニケ―ションしていただける取り組みもしております。 閉塞する社会と企業内の渋滞解消のためにも、是非、弊社セミナーにご参加ください。次回は11月16日に、「営業科学にもとづく確実に結果を出すためのセミナー」を開催いたします。


 取締役 牧野 春彦