フロー体験と日本の伝統文化
「電車内で本を夢中になって読んでいて、乗り過ごしてしまった」
「スポーツやゲームに夢中で、気がついたら日が暮れていた」
こうした体験はありませんか?
何かの活動に集中して時間が経つのを忘れるほどのめり込んでいる状態のことを、アメリカの著名な心理学者であるチクセントミハイは「フロー」と言っています。この状態になると、生産性が高くなり、幸せを感じたり、驚くほど短時間に物事が上達したりします。ビジネスシーンに当てはめれば、一人ひとりが充実感や幸福感を抱きながら仕事に取り組み、高い成果をあげながら成長している状態だと言えます。フローは仕事において生じやすいもので、組織の活性化に非常に有効な理論であることもわかっています。
それでは、どのようにすればこの状態を引き起こすことができるのでしょうか?
博士は以下の6つの条件を挙げています。
(1) 明確なゴールや目標の存在
(2) その目標は能力に比べて適度なチャレンジが必要であること
(3) 目標達成に本質的な価値や意味があること
(4) 状況を自分たちでコントロールできること
(5) 自分たちの本来持っている強みを活かすことができること
(6) フィードバックができること
フローを起こすには、ゴールに向かうチャレンジが非常に重要です。チャレンジがなく、いつもぬるま湯に浸かっているような状態ではフローは起こりません。逆に、自分の能力よりも高すぎるチャレンジも、不安やストレスを感じるだけで意味が無く、達成できないことも分かっています。フローが起こりやすいのは、持っている能力よりも少し高いレベルにチャレンジする時です。しかも、自分の得意な能力、いわゆる強みを活かしてチャレンジする時、人は工夫し知恵を絞ることで成長していきます。
また、仕事への本質的な意味づけも重要です。「この仕事は何のためにやるのか?」ということにポジティブな意義を見出すことができれば、人は主体的に働きます。そのためには、言葉を換え、仕事に確かな意義を与えていくことが有効です。
先日、縁があり寺院にて茶道や写経を体験する機会をいただきました。このときに印象に残ったのは、「心が鎮まる」という感覚です。博士は、日本の伝統的な文化活動はフローを引き起こすためにとても重要なものあると述べ、茶道や弓道、禅などの重要性を伝えています。「無心」「無我」の境を目指す日本の伝統文化は、実在が命じるところに細心の注意を向けつつ、美しい周囲の環境と一体化をしていくという、適切な修練の場であると言えます。
生産性が高く、一人ひとりが活き活きと働く環境をつくっていくため、今一度日本の伝統文化に触れ、フロー体験との関係性を体感してみてはいかがでしょうか。
加藤 滋樹