中部経済新聞に掲載されました
経営者のためのコミュニケーション心理学 第6回

経営者のためのコミュニケーション心理学
第6回
「ザイオンス効果」の応用
相手の立場にたって対話重ねる

 「1件でも多くの顧客のもとに足を運べ」―。
 このことばを指導者として言ったり、もしくは、かつて先輩から聞いたりしたことはないでしょうか?
 はじめのうちは興味がなかったり苦手だったりしたものも、何度も見たり聞いたりすると、興味がわいてきたり次第に良い感情が起こるようになってくる、そのような経験が誰にでもあります。見たり聞いたりすることで創造されて潜在記憶が、個人が持つ印象にも誤って上書きされてしまうというもので「単純接触効果」、もしくは発見者である米国スタンフォード大学の心理学名誉教授、ロバート・ザイオンス博士の名を冠して「ザイオンス効果」とも呼ばれているものです。
 図形や漢字、衣服、味やにおいなど、いろいろなものに対して起こることが分かっています。CMでの露出が多いほど、よい商品だと思ったりすることです。商品やサービスの提案活動において、「近い人、知っている人、既存顧客からご案内をはじめる」というのも、このザイオンス効果にもとづいていることが言えます。
 加えて、この効果の応用編もあります。例えば、誰にでも初対面で「苦手なタイプだな」と感じる相手が存在します。しかし、苦手なタイプの人とも関係性を向上する努力をつづけていくことも、私たちには求められます。これを私たち自身として乗り越えるときにも、接触回数を増やすことをお勧めします。自分自身が抱く「苦手だな」という印象が、何度も接触を重ねるうちに、「意外にいい人なのかも」という印象に変わっていきます。実は、ザイオンス効果は、自分自身にも大きな有効性を持つことが確認されています。
 ところが、接触回数を増やすことで、いつも好印象を獲得できるとも限りません。ザイオンス効果が逆方向に働いてしまう場合もあることも分かっています。例えば、相手が自分に対して良くないイメージを抱いている場合です。自分への印象が悪いままで接触回数を増やしても、悪い印象が拡大してしまうばかりです。自宅やオフィスに見ず知らずのセールス電話が何度もかかってくることと同じです。
 最後に、今回の結論としては、ごくごく当たり前のことが分かります。それは、相手に不快感を与えないこと、自分からの発信ではなく、相手が喜ぶ内容、興味を持つ内容で接触を重ねるということです。私たちは自分本位になっていないでしょうか。日々、相手の立場にたって対話を重ね、信頼関係を築いていきたいものです。

加藤 滋樹

 

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