想像するちから

 ゴールデンウィークの連休中はいかがお過ごしでしたでしょうか。お休みの最中、私が印象に残ったことを二つ、紹介をしたいと思います。

 まずは一つめの話題。この機会を利用しまして弊社の関係先よりご縁をいただきました表千家の茶道教授の先生を訪ねに、高山市を訪問しました。4月に私の息子が小学校に入学し、伝統文化の授業で茶道を学習することもあり、先生の許可を得て息子も同席をさせていただきました。「気軽に来ていただいて構いません」と仰ってくださいましたが、先生は私どものために、越中八尾の銘菓「おわら玉天」を用意してくださいました。 image この和菓子は泡立てた卵の白身、砂糖、寒天を型に流し込み、表面に黄身をつけ狐色に焼きあげた淡泊で、軽く柔らかい味わいがあり、子どもにも親しみやすいことが特徴です。つまりは、私のみならず息子が喜びそうなおもてなしのために越中八尾を尋ねられ、用意をしてくださったのでした。それ以外にも桜や藤の花といった季節感のある茶器をはじめ、お庭や掛け軸、床の間のお花などに、春を感じる設えをしてくださいました。茶道にゆかりの深いことばに、一期一会があります。このことばを広辞苑でひもとくと、「生涯にただ一度まみえること。一生に一度限りであること」とあります。その日、その時、その出会はいちど限り。有難くも心に響いた一日でした。


 続いての話題はインドネシアに関する書籍からの引用です。昨今よりご案内を致しておりますように、私たちが事務局を担うASEAN-NAGOYA CLUBは、インドネシア政府との共催によるジョイント・イノベーション・プログラムを開催しております。このプログラムの二回目のセミナーにて講師をお願いしている金城学院大学の足立文彦名誉教授より『経済大国インドネシア(著・佐藤百合氏)』という書籍を推薦していただきました。その文中には、東日本大震災が起きて数日間のインドネシア留学生の活躍が克明に記されていました。彼らは日本への根拠のない不安をかき立てるような、不正確な情報を流さないよう本国のメディアに要請する声明をいち早く発表するとともに、原子力を専攻する11名のインドネシア留学生が大使館に設置された危機管理センターに集結し原発事故をめぐる情報を分析。大使館は分析結果から福島第一原発より100km圏内の自国人を東京に避難させたものの、「250km離れた大使館自体を西日本などに一時移転する措置はとらない」と決めたそうです。「大使館が総じて冷静な対応に徹したことが、在留インドネシア人の間にパニック的な国外退避が起こらなかった一因になったと考えられる」と記していました。
 私たちはいっときの感情の高ぶりや根拠のない抽象的な話題に、しばしば振り回されてしまいます。茶道における一期一会、東日本大震災発生時におけるインドネシア留学生の活躍は、相手を思いやり、状況を想像し、確かな事柄や確かな物を大切にしていくことについて、私たちに大きな示唆を与えてくれているのではないでしょうか。



 加藤 滋樹